小学低学年のころ、絵画の時間に近くの山に写生に行くことがあった。脳裏に浮かぶのは山吹色と濃淡の緑だから秋だろうと想像がつく。クレヨンを使って前方の山並みを写生するのだがとびぬけて心を打つ絵を描く子供がいた。近所に住む源君で、彼の描く絵は画用紙にクレヨンを塗り重ねていくので色は濁りがちだがインパクトが強い。そしてそのインパクトは遠い記憶の中でだが、少し悲しみを含んでいたかもしれない。彼の描いた作品は必ず優秀作品として教室の後ろの掲示板に張り出されていた。
源君の家は近所の質素な長屋で、遊びに行くと継母にいつも口汚く叱られていた。父は電柱に登って電線を工事する危険な仕事についているが、この父が一度高圧に触れて療養している姿を見ている。豪快な語り口と命がけの仕事からにじみ出る風格のようなものを感じた。この両親のもとで育てられていた源君が素晴らしい絵を描いていた。