まさおレポート

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平成テレコムの変遷15 光の道構想の挫折 12327文字

2019-06-06 | 通信事業 NTT・NTTデータ・新電電

孫正義氏の光の道構想とその挫折を語るにはその前段を語らないと十分にその思い入れが伝わらない。

2003年5月22日に衝撃が走る。第 156回国会で18年ぶりの大きな改正となる電気通信事業法改正案が可決されることに伴い、いきなり参院附帯決議が可決された。折から取締役会議の最中午後8時過ぎにそのニュ-スが伝わり筆者は会議に飛び込んで孫正義氏に特報を伝えた。

「大変です。たった今参議院で光ファイバの指定電気設備を再検討する参院附帯決議が可決されました。」
と筆者が開催中の取締役会に飛び込む。
「どういうことなの」といぶかる孫正義氏。
「再検討の結果次第では光ファイバの卸価格が今の認可料金からNTTが自由に料金設定できることになります」と筆者。
「それは大変だ。1分でこの場の役員に簡潔に説明してほしい」と孫正義氏。

電気通信事業法改正案は次の5点からなる。
①第一種と2種の事業区分廃止
②事業の許可制廃止
③指定電気通信役務を除き料金と契約約款の事前届け出義務の廃止
④NTT東から西への補填の是認
⑤端末の技術基準認定基準の緩和

このうち、③指定電気通信役務を除き料金と契約約款の事前届け出義務の廃止に関連して参院で付帯決議されたのだ。つまり、NTTの光ファイバ役務は③の指定電気通信役務に入るのだが、料金と契約約款の事前届け出義務が存続することに対して「光ファイバに関する指定電気通信設備規制の在り方について競争状況の進展を踏まえながら検討を行うこと」とわざわざ付帯決議されたのだ。

参院では民主党の内藤議員(NTT労組出身)が当の付帯決議を提案・推進し、自由民主党・保守新党、民主党・新緑風会、公明党、国会改革連絡会(自由党・無所属の会)及び社会民主党・護憲連合の各会派共同提案による附帯決議案を提出とあり、超党派の提出である。ところが同じ民主党の嶋聡議員(当時)がその行動に反論する意見をインタビュ-に答えて述べているのがネット上に掲載されていた。内藤議員の付帯決議推進行動は民主党の総意ではなかったということが明らかになった。

嶋元衆議院議員は当時の事情を以下のように述べている。

ちょっと異質に思えたのはNTT労働組合の組織内議員の内藤参議院議員が中立の審判者のように意見をいっていたことだ。私が議員だったとき、今回と同じ内藤参議院議員があまりにNTTよりの政策を遂行しようとした。総務部会で手続きを踏んでいないと問題になったことがある。そのとき、現国対委員長代理の安住淳議員が「私はNHK出身である。だから、NHKの問題の時は国会では質問にたたないようにしている。そういう節度を持って欲しい」と総務部会で発言された。
(http://blogs.yahoo.co.jp/simasatosijp/716628.htmlより引用)

超党派で出された付帯決議案が実は民主党内の正式手続きを踏んでいない知ったときは驚いた。あまりにも党としての統一がなされていない。しかしこれが民主党のみならず他の自民党をはじめとした党でも賛同されている点に要注目である。後述するように議員の間でも付帯決議の効力については統一見解がない、どちらかと言えば気休め程度の提案ととらえられている節もあるが、実際には火種となって総務省を動かす根拠ともなりえる。このように法的根拠があいまいなところが極めて曲者である。気がついたときには既に遅いと言う危険があるのが国会付帯決議なのだ。

嶋議員を孫正義氏と訪問した。さらに当時の野党である民主党議員とも関係が生じ、さらに与党民主党となったのち、太陽光発電、再生エネルギ-で菅総理と連携をとることとつながっていくが、実はこの国会付帯決議事件がきっかけなのだ。さらに嶋聡議員(当時)のソフトバンク社長室長への就職と結びついていく。(しかしその後に来る民主党大勝利の選挙では議員復帰して総務大臣になったかもしれない可能性もつぶれたことになり人生も複雑である。)

参議院付帯決議に対する総務省や政治家の反応は鈍かった。付帯決議などそんなに効力はないのだから、大げさに騒ぎすぎとの意見も多くの議員から頂いた。総務省を訪問して当時の鈴木電気通信事業部長(当時)に訴えても「付帯決議程度では指定電気設備から外すような結論は出しませんよ」と自信満々の回答であった。片山虎之助総務大臣を始め、各関係議員や総務省幹部に孫正義氏が訴えるが
「付帯決議なんて特に効力はありませんよ。気にすることはありません。」
といった反応が大方であった。

KDDIも五十嵐副会長に総務省ロビ-でたまたま会い、質したがさほど問題視していなかったので孫正義以外の関係者のこの事件に対するリスク感度が低いことを痛感した。
一般的には衆議院で付帯決議され、それが参議院でも決議されるというのが筋であるにもかかわらず参議院で(ひと目につかないように)先議されるのもなにやら異例である。光ファイバ設備を指定電気通信設備から外そうとする外堀作戦としての意図を感じてもおかしくない。NTT光ファイバを指定電気通信設備から外されるとブロ-ドバンド推進戦略上極めて大きなダメ-ジを受ける、つまり卸料金がNTTによって禁止料金的に設定可能になるのだ。

「水際で抵抗する」孫正義氏はそう判断を下し、衆議院でも同じ付帯決議が動議され決議されることを回避するための行動が社の最大優先事項として走り出した。孫正義氏のすべてのアポに最優先した。こうしたときの行動は迅速でかつ集中度が凄い。傍目にはやや過剰とみえた阻止行動に映るがこの種の対応はタイミングが特に重要である。間があけば「なにをいまさら」との感が付きまとい、訴えの効果は指数関数減衰をする。

附帯決議とは、法律のような拘束力はありませんが、国会の議事録に残る決議として、法文に準ずる効力を持ちます。」(堂本暁子の永田町レポ-ト19990813)
「山岸君が私のところに電話してきて、修正のポイントを伝えてきました。…参議院段階で、一部修正して付帯決議で妥協し、山岸君の顔を立てました。それで、山岸君も賛成に回ってくれたのです。 自省録 中曽根元首相

「自省録」からも中曽根元首相が電電三法の成立を巡って山岸委員長に顔をたてた実例が語られていて付帯決議それなりに効力のあることが推し量れる。
参議院付帯決議後の孫正義氏の陳情行脚は猛烈を極める。危機感受能力から危険な芽は摘んでおきたい気持ちと、この際これをきっかけに積年の光ファイバの問題点を議員にアピ-ルしたいとの思いもあり、多数の企業を束ねるオ-ナ-社長としては考えられないほどの時間とエネルギ-をこの問題に割いた。この問題のアポをすべてに最優先すると前述したとおりである。最近では「いま、同じことをもう1度やろうとしている。売上や利益で貢献していないAIの分野に私の頭の97%を専念させ、ビジョンファンドに取り組む」と述べているが当時は数ヶ月をまさしく97%を専念させこの課題解決に注いだ。

情報通信に関心の深い議員に対して党派を問わず、ほぼすべて網羅といっていいくらいに漏れなく光ファイバの指定設備の必要性について説明に議員会館を時間刻みでかけ回った。説明の要点はNTT光ファイバのシェアの現状(当時)と、新規参入者が光ファイバを敷設したくても実際には手続き面での困難さで挫折するという事実の2点であった。

当時の自民党幹事長麻生太郎氏を自民党本部幹事長室に訪れた。その場で麻生(当時)幹事長は秘書に命じて総務省の有富氏に電話をつながせ、なにやら質問を投げかけていた。ついで片山虎之助総務大臣を大臣室に訪れた。他に細田、鴻池、遠藤、八代、岩屋、平井の各議員などに事情説明をして回った。

民主党では嶋、玄葉、安住議員などに同様の説明をして回った。公明党には山口現委員長、松あきら議員など複数の議員に国会内公明党控え室で朝から同様の説明をした。おかげでそれまで縁の無かった議員会館で、説明の終盤には各議員の部屋番号まで記憶するほどになっていた。議員会館のエレベ-タは、議員専用と一般用が有ることを知ったのもその頃のことだった。
その効果が出た。衆議院では付帯決議の提案は無かったのだ。その報告を孫正義氏にすると会議中だったが握手とハグが返ってきた。よほど嬉しかったのだ。


NTTの光ファイバを他事業者が卸で借り受けて自社サービスを展開しようとすると卸価格よりも小売価格が安いという競争にならない価格構成になっていた。

販売会議で孫正義氏は担当幹部を叱責する。
「なんだ、販売が全然進んでいないじゃないか」
「NTTが卸料金5074円にもかかわらずニューファミリータイプの小売4500円で出してきました。これでは太刀打ちできません」
と担当幹部が答える。
「すぐ公取に訴えろ。」
と孫正義氏の指示が飛ぶ。

公取より先に総務省が動いた。2003年11月12日に総務省が顧客料金4500円は競争を阻害する私的独占とNTTにFTTHの不当競争を行政指導する。FTTH設備を共用して4500円と安価に提供するニューファミリータイプでは4顧客で共用することが前提の価格設定になっている。ところが多くのケースで1ユーザ直結で占有の事例がみられるため、不当競争の恐れがあると行政指導したのだ。本来はEPON(Ethernet Passive Optical Network)を分岐する電柱上に設置して、各家庭には専用の終端装置を置くのだがそうしたことは行わず、単に顧客料金のみを下げて販売していたことになる。

ついで2003年12月4日には公正取引委員会が排除勧告をおこなう。NTT東日本が戸建て住宅向けBフレッツプラン「ニューファミリータイプ」で、月額料金を4500円に設定した価格は競争を阻害する私的独占と判断した。NTT東日本が戸建て住宅向けBフレッツプラン「ニューファミリータイプ」で、月額料金を4500円に設定した価格がほかの事業者に光ファイバ1芯を貸し出す際の接続料074円を下回り、独占禁止法に基づく勧告を行ったのだ。

2003年12月15日にはNTT東が公正取引委員会の排除勧告に応じないことを発表。ニューファミリータイプが過渡期のために顧客が追い付いていないだけで意図的な設備構成ではないとの理由で、排除勧告に反論している。

2004年2月25日にはNTT東に対する光ファイバー不当廉売の審判を公正取引委員会の審判廷で開始する。この日は筆者は霞が関の合同庁舎まで出かけて傍聴した。審判廷では、NTT東日本は複数の代理人弁護士が審査官の調査内容に真っ向から強い調子で反論していた。(MDF自前工事を争う紛争処理委員会の場でもやはりNTT西日本は同じ弁護士を使い、米国流と思われる強い調子で反論と云うよりも非難に近い言説を浴びせていたが結果的にはこのような米国流マナーは功を奏しなかった)

2007年になってようやく公取委の審決が出る。しかしNTT東は東京高等裁判所へ審決取消訴訟を行っている。
2007年3月29日 公正取引委員会は2004年2月15日審判開始から3年後にようやく審判審決を行った。

主文の概要: 加入者光ファイバ設備を保有しない他の電気通信事業者が,被審人の加入者光ファイバ設備に接続して戸建て住宅向けFTTHサービス事業に参入することを困難にし,これを排除していたものと認めることができる。
被審人の行った本件排除行為は,市場支配的状態を維持し,強化する行為に当たり,東日本地区における戸建て住宅向けFTTHサービスの取引分野における競争を実質的に制限するものに該当するというべきである。

さらにNTTは審決取消訴訟を起こすのだが2009年5月29日には審決取消訴訟の判決が東京高裁で言い渡され、結果は、請求棄却でNTT東日本の敗訴となる。
さらにNTTは審決取り消しを求めた訴訟の上告を行うが2010年12月17日 NTT東日本が審決取り消しを求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第2小法廷(千葉勝美裁判長)はNTT東側の上告を棄却した。

実に7年以上かけて決着を見たことになる。しかし7年もかかっているようでばIT産業において既に競争上の環境は変わっており、これでは公取審判は実質的に何の役にも立たないことになる。こうしたこともあって「光の道構想」へとつながっていく。

「光の道構想」を語るにはもう一つ、電柱問題に触れなければならない。

2002年4月1日の改正ガイドラインでも電柱の自前電柱添架工事の推進のためにはあまり効果がなかったため、その3年後に総務省総合通信基盤局総務課の鈴木課長(当時)が主催した「光引込線に係る電柱添架手続きの簡素化等に関する検討会」第1回会合(2005年5月18日)が開催された。いかにして、電柱借用の手続きを簡略化できるかを目指して開かれた研究会だ。2005年7月28日まで2か月をかけ6回に亘って集中的に議論された。

手続き簡素化のさまざまな提案と試行エリアでの試行実施が決まり試行エリアである東京都目黒区と大阪府豊中市で、日本テレコムとKDDI,東京電力、関西電力が参加した。
手続き簡素化により従来平均1ヶ月を要していた期間が、13営業日、約3週間に短縮されたことが報告されている。2年後の2007年には「公益事業者の電柱・管路等使用に関するガイドライン」が改正予定となるなど、一定の成果が挙げられたことは大きな進歩だと思う。

ただし、日本テレコムが当研究会報告書で述べているように、NTTとの公平性はこれで証明されたわけではない。依然として、NTTの社内処理との差がなくなった事の証明は成されていない。今後の課題としてはNTT東西の社内での手続きの日数が行政当局に報告され、接続事業者との差が競争上公平といえるまで僅少になることがポイントとなる。

試行エリアでの簡素化手続きの実施により今まで見えなかった重要な事実が明らかになった。申込み側の線路設計(街の電柱のル-トを定める)から電力会社とのやり取りを踏まえて最終申請書が作成されるまでに平均1.5ヶ月も費やすことだ。これはソフトバンクなど申込み事業者側にNTTや東京電力などの電柱ル-ト情報が無いためであることが主要因である。つまり申込者側は電柱ル-ト地図を持たないためにおよそのル-トを現地で目視して推し量り東京電力などに提出し、誤りを指摘されては再び推測でル-トを書きあらためて、ふたたび・・・といった作業を繰り返すことになる。

これはADSLサービスで直面した名義人問題と「問題の根」が同じ構造で、デ-タベースをもつ側と持たない側のあいだには大きなハンディキャップが横たわる。
NTT東西や東京電力等の電柱ル-ト情報はセキュリティ保護上極めて重要なデ-タであることは事実で、セキュリティを確保した上で、他社で設計可能な情報のみを取り出す方法を考え出さなければならないが現実はそうなってはいない。ソフトバンク等申込者側で提出した推測ル-トが当を得ているかどうかの正誤判断だけではなく、誤っている場合には正解のル-トを返してもらえる配慮があれば、この平均1.5ヶ月もかかる期間の短縮が図られたのではなかったか。

通信に利用している電柱の所有者としては、全国の電力会社の方がNTT東西よりも多く、日本全国3000万本の内60%を所有している。NTT東西も電力会社から多くを借りている。電柱借用問題はNTT東西のみの問題ではなくむしろ比重は電力会社にある。しかし、電力会社各社は総務省の監督下にはなく経済産業省の主管になる。そのため総務省側としても縦割り行政の桎梏から抜け出せず、どうしても電力会社側にお願いベースになりがちであった。

その後総務省から発表された「競争促進プログラム2010」では電柱利用で一歩踏み込んだ提案を行っている。経産省所管の電柱添架問題であっても総務省所管の紛争処理委員会でのあっせん・仲裁を認めると言及しているのがおおきな前進かもしれない。

さる公聴会でも孫正義氏はこの持論を和田社長にぶつけた。NTT持株会社の和田社長は「株主のものだ」と反論した。いったん大蔵省に株券が渡った時点で、国民の税金による電柱財産は株券に形をかえ、国家(大蔵省)に入っている。「株主のもの」も正当な主張だが、株主が大蔵省(当時)に保有されている事実と、特殊会社であるという2点からは大株主である国民保有も又正しい。異なった側面を両者は主張していることになる。

しかし、孫正義氏はその反論を承知の上でいつも議論を吹っかけている。和田社長の反論に追随して、延々とその法律的解釈を議論する気はさらさらない。要は国民の耳目を集めることが作戦だろう。いくら正論でも国民の関心が向かないと、事態が解決しないことを熟知している戦術だ。分かりやすい「国民財産論」で人々をキャッチし、その後の議論で上述の実際的不公平を訴えることで国民を議論に巻き込もうとの作戦だ。この闘いも結局はビジネスに結びつくことは無かった。

2009年に孫正義氏が「光の道構想」に執心した遠因は前述したがもう少し具体的には次の理由がある。

一つはMDFと呼ばれるNTT内の配線盤とADSL装置を接続する工事料金の低減であり、他は電柱に光ファイバーを敷設する自由を得るためだ。これが手に入れば本気で工事会社を起こして日本中に光ファイバーを敷設し、既に買収済みの日本テレコムをテコにして固定電話シェアを根こそぎ奪う構想を持っていた。しかしこの構想はソフトバンク案が研究会で却下され頓挫する。

光の道構想の孫正義提案は町田徹氏から手厳しい批判を浴びた。3兆円を超える資産を1兆7000万円特別損失として処理することや早々に債務超過に陥る会社構想に疑問を投げかけられた。そうなれば、結果としてソフトバンクの儲けのために公的資金を投入したとの批判を免れまいとの指摘だ。町田徹氏の批判を詳しく眺めてみる。

①町田徹氏は原口一博総務大臣の主催する、毎秒100メガビットの超高速光ファイバ網を主体とする「光の道」構想を検討する「グロ-バル時代におけるICT政策に関するタスクフォ-ス」のメンバ-である。2009年10月30日に第一回会合が持たれている。

②孫正義氏の、「税金ゼロ」で整備する方策を提案する「光の道の実現に向けて」という意見書に対して「綱渡り」あるいは、「アクロバット」としか呼べない乱暴な戦略と批判する。その根拠は以下の通り。

③保有する従来型のメタル回線の通信網をすべて5年以内に撤去し、光ファイバ網に置き換えるとし、新たな投資資金、約2兆5000億円の資金が必要だが、民間調達が可能とする。しかしこの案を町田氏は次に示すように無謀だと批判している。

④ソフトバンク資料の「アクセス回線会社:当期利益」(151ぺ-ジ) では初年度に巨額の特別損失1兆7501億円を計上する計画だが5年間の当期利益の累積は9808億円と特別損失の6割相当分さえ回収できない。これは一括償却をやらなければ、アクセス回線会社は毎年、巨額の赤字を計上するという見積もりに他ならない。
このような危険な提案に「戦時下の共産主義国家か全体主義国家ではあるまいし、こんなことをなんの補償もなしに、民間企業に強要する国家戦略など論外である」と手厳しい批判がなされる。

さらに補足的にハイリスク・ハイリタ-ンのソフトバンク株と、安定配当を期待されるNTT株では、株主が期待する経営手法も異なっているとし、次の批判を重ねる。
・債務超過になった時点で、ただちに第2部市場への降格処分を受けることになる。もし、アクセス会社が翌年度中に債務超過を解消できなければ、上場そのものの廃止に追い込まれてしまう。
・ソフトバンクグル-プ幹部に取材したところ、「プライベ-トエクイティからの資金導入は可能だ」との反論が戻ってきた。資金の出し手が不明なプライベ-トエクイティの資金を導入するのはリスクが大きい。
・日本の安全保障の根幹に大きな影響を及ぼしかねないアクセス回線会社の議論は、決して、ソフトバンクのボ-ダホン買収と同列で論じるレベルの問題ではない。
・ソフトバンクの資料149ぺ-ジの「アクセス回線会社:年度末回線数」の注釈に、「光の道」構想における光ファイバ網の整備対象回線数を「4900万世帯+事業用1300万回線=6200万回線」としたうえで、4900万世帯の90%と、事業用の1300万回線すべてを、アクセス回線会社が抑えるという前提が記載されており、アクセス回線会社の売り上げはその前提に基づいて算出されている。しかしNTTが4月にタスクフォ-スに提出した資料をみると、現在のブロ-ドバンド網(全国で3163万契約、ADSL含む)におけるNTTの回線シェアは7割程度であり計画が楽観的すぎる。
・楽観的で危険な計画に立って光ファイバ回線の接続料を従来のメタルと同水準、1400円程度と格安に設定するように求めているが、これはアクセス回線会社が破綻して、そのツケを公的資金で埋めなければならなくなるリスクが大きい。そうなれば、結果としてソフトバンクの儲けのために公的資金を投入したとの批判を免れまい。「現代ビジネス 町田徹氏掲載より」

実はこの光の道構想はNTT民営化が議論された当時に中曽根首相が構想していたことなのだ。下記引用の「工事関連部門は別に専門の工事会社をつくって分割してしまえ」はアクセス分離のことで言い換えれば「光の道構想」なのだ。実に卓見だと思う。光の道提案の理論武装がお粗末であったために町田氏の攻撃でぼこぼこにされたことが悔やまれる。

私が真藤さんに期待したのは民有分割論でした。山岸君にもいったことがありますが、「全国の電電の幹線は全国規模でそのまま維持する。それから、研究所もその優秀さは世界トップレベルなのだから、これもそのまま維持する。あの力を落としてはいけない。
しかし、本体以外の関連業務や下部機構の工事関連部門は別に専門の工事会社をつくって分割してしまえ。データ通信や電話工事部門などは分離して、情報通信の中枢の把握と研究をやれ」と、そういったのです。しかし、山岸君は「分割反対」を譲らなかったので、今でも、その課題があるわけです。中曽根康弘 自省録

 

エピソード1 孫シフト

総務省が2006年9月に発表した「新競争促進プログラム2010」では、「孫シフト」とみられる対処がいくつか取り入られていると感じた。一例として総務省の「新競争促進プログラム2010の進捗状況について」を見ると「回線名義人情報の取扱いの改善」などが挙げられている。

「情報通信審議会答申「コロケーションルールの見直し等に係る接続ルールの整備について」(07年3月)を踏まえて講ずる措置(中継ダークファイバ及びコロケーションリソースの過剰保留の抑制、回線名義人情報の取扱いの改善、加入ダークファイバ及び局内光ファイバの申込み手続の見直し、事後精算制度の廃止等)の着実な実施を図る」 

しかしNTTとの光ファイバ貸出を巡る闘いは2014年に至っても決着していない。

このソフトバンクの訴訟はその相手を間違えたためか、あるいは地裁への訴状内容の説得材料が不足したためか、東京地裁に一蹴されている。

毎日新聞の記事からは、地裁は「訴訟するならNTTの8回線単位の光回線貸出を認可した総務省に対する行政訴訟にしてくれ」と言っているように読める。東京地裁の却下は認可というタームから当然推測されるものだとの見方もできるが、しかし過去の公取での類似の審判と比較検討してみるとなかなかそう簡単に割り切れるものでもないことがわかる。結論は訴訟テクニック上の問題ではなかろうか。

以下 毎日新聞より引用して今回の訴訟却下を眺めてみると。

NTT東日本とNTT西日本の光回線(光ファイバー)貸し出し方式は、独占禁止法が禁じる不当な取引拒絶に当たるとして、ソフトバンクグループが差し止めを求めた訴訟の判決で、東京地裁(氏本厚司裁判長)は19日、請求を棄却した。

ソフトバンクはNTTが保有する光ファイバーを借りたサービス提供を検討しているが、NTTは貸し出しを8回線(光ファイバー1本分)単位でしか認めていない。このためソフトバンクが「余計なコスト負担を強いられる」と1回線単位での貸し出しを求めた。

氏本裁判長は判決で、8回線単位の貸し出し方式は国の認可を受けていると指摘、「NTTは1回線での貸し出しに応じてはならない義務を課されている」などと述べた。

(毎日新2014年06月19日)

ここで裁判長は

「NTTは1回線での貸し出しに応じてはならない義務を課されている」

と認可の本質から一蹴している。総務省は認可を行うに当たり8回線単位での貸し出し料金を合理的と判断している。1回線での貸し出しが無いと言う前提での合理性であり、つまり「NTTは1回線での貸し出しに応じてはならない義務を課されている」という帰結になるようだ。

では参考までに過去の光回線貸出でNTTと争った類似のケースをみてみると、今回の却下となにが異なるかが見えてくる。

2003年12月4日に委員会がNTT東日本が戸建て住宅向けBフレッツプラン「ニューファミリータイプ」で、月額料金を4500円に設定した価格がほかの事業者に光ファイバー1芯を貸し出す際の接続料、5074円を下回り、独占禁止法に基づく勧告を行ったが、同社がこれを応諾しなかったため、審判を開始した。

2004年2月25日 NTT東日本に対する審判を公正取引委員会審判廷で開始

2007年3月29日 公正取引委員会は2004年2月15日審判開始から3年後にようやく審判審決を行った。

主文の概要: 加入者光ファイバ設備を保有しない他の電気通信事業者が,被審人の加入者光ファイバ設備に接続して戸建て住宅向けFTTHサービス事業に参入することを困難にし,これを排除していたものと認めることができる。

被審人の行った本件排除行為は,市場支配的状態を維持し,強化する行為に当たり,東日本地区における戸建て住宅向けFTTHサービスの取引分野における競争を実質的に制限するものに該当するというべきである。

2010年12月17日 NTT東日本が審決取り消しを求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第2小法廷(千葉勝美裁判長)は17日、NTT東側の上告を棄却した。実に6年以上かかって決着を見たことになる。



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