バリの至る所でジュプンという白い花に出会う。バリだけではなくカンボジアでもタイでもベトナムでも寺院に多く植えられていた。この花はいろいろな名前を持つので最初のころは尋ねる人ごとに違った名前を答えられ戸惑った。日本やハワイではプリメリア、イギリスではフランジバニ、インドネシアではカンボジア、バリではジュプンと言うらしい。さらにピンクのジュプンはジュパンという。これは日本のジャパンから来ていると教えられた。カンボジアではたしか縁起のよい花ではないと聞いた。寺に植えるのは死者を埋葬するために線香の代わりをさせるためだろうか。
この花はよく道端に落ちているので、きれいなものを拾い上げて匂いを楽しむ。しかし、たとえばハイビスカスの花は落ちていても花の中心に雄蕊雌蕊がしっかりとついているが、このジュプンはそれらしきものが全くついていない。淡い黄色の中心部はがらんどうなので、一体この花はどうやって受粉するのか、あるいは特殊な花なのか、そのあたりが知りたいがいまだ知識をえていない。
このジュプン、実に甘い匂いがする。ある時から多くの花の匂いはある共通の匂いから成り立っていることを感じた。甘い中に苦いというか殺虫的な匂いが潜んでいる。百合の濃厚な匂いもジュプンの甘い匂いも、その他多くの花の匂いは甘い成分と毒を感じさせる臭いで成り立っている。もちろん同じ匂いだと言っているのではない。共通する2大成分があると感じているが、これも成分分析でもしたらどんな結果がでるのだろう。
ゼラニウムの花の匂いはよくないと聞いていたし、自身でもよい匂いというのは感じたことがない。しかしフローラルな香りがすると書いてある記事もあるしどちらが本当なのか、花も探せば悪臭のするものもあるのだろうと思う。
悪臭とよい匂いは実は成分的には同じで、希釈度の違いだとの説をかつて何かの本で読んだことがある。これは相当にインパクトが強い話で、長い年月を経てもいまだに覚えている。たとえば排泄物も極端に希釈すると香水の匂いに近づくというお話が書いてあったが、この話今でも通用する真実なのかどうか確認してみたい気がする。これは毒と薬の関係と同じで適量をとれば薬になるという話と通じている。
これはまた善と悪の関係にもどこかで通じていると連想させるが、これは村上春樹の「1Q84」でも追及しているテーマで、花の匂いから人間の根源的テーマにまで連想が行ってしまう。