山田航の推敲法
ある女性歌人の1首に「ご苦労さまです」と書かれたのを見たことがある。たしかに、その歌は難産で生まれた児のような感じもした。力作という評でなく、「ご苦労さま」は評者の皮肉だろうか。今日は角川短歌2月号特集 わたしの推敲法・山田航を少し読んでみる。
♦ 鉄道で自殺するにも改札を通る切符の代金は要る
「当たり前じゃないの」「これでも短歌なの」「居酒屋帰りの駅での飲み友との会話?」いや、そんなことはない。何度も読んでいると 「これはすごく気の利いた1首だ」と私はため息。しかし山田は「ボクだって詠むのに苦労してますよ」と次のように書いている。
「私はシンプルな口語の歌ほど推敲に時間をかける。いかにも推敲してなさそうに見える歌は、推敲してなさそうに見せるための推敲を繰り返している。この歌は改札前で思い付き、ホームへ行く手順を実際に確認しながら作った。「飛び込みじさつをする人も切符代を払わなけりゃホームに行けない」という発想自体はすでに完成している。
(原案)地獄への通行料だ電車へと飛び込む人の片道切符
(第二案) 鉄道で自殺するにも改札をくぐる切符の代金は要る
「くぐる」は華美な表現に思えてしまい「改札を通る」という即物的な表現に変えた。この歌は徹底的にシステム化された現実世界の取材、文体も修辞も抑制したかったらしい。修辞の華やかさはほどほどにすることですね、山田航さま」
2月16日 松井多絵子
8原案。