芸名だそうですが、森光子って名前とてもいいですね。森は童話を、光は希望をおもわてプラスイメージ。四十歳を過ぎたら女は枯れてゆくのに、森光子はその頃から咲きはじめて九十歳でも花盛りとは。光子にちなんで私の「光」の歌を選んでみました。悲しい、淋しい、辛い歌のなかに光が詠み込まれた歌が多くあります。陰を際立たせるのは光、光と陰は一対なのでしょう。
★光をうたう十四首 松井多絵子
蹴りたいのはわたしの怠惰、なにもせず春のひかりを待ちわびている
うしろから背中を押してくれないか午後の光の無数の腕よ
草食の鴉が近ごろ肉食になったと言う君、前歯が光る
春先にわれを酔わせた紅梅の花のなき枝を光が走る
光線を折り曲げ風を倒しつつ劇場遺跡の石段おりる
うち寄せる波がギラギラ光ってたあの八月にはもう戻れない
なぜだろう光りそこねてしまうのは、わたしは陰に愛されている
枝ごとに新しき葉を光らせて南の窓とう窓はさみどり
ひるすぎの二階より見れば新緑のどの葉もどの葉もひかりに従う
光線が縺れていたりまだ花のひらかぬ藤のしだれる枝に
かつてあふるるほどの力のありし手は、あふるるほどの光のありし手は
うつつにも目交いに紋白蝶がいて光の海を浮きつ沈みつ
町なかの広き家屋が壊されて名もなき遺跡にひかりが集う
むかしむかしすれ違うたびときめきし光の君を今夜も避ける
※光の君も私を避けたのかもしれませんね。
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