堀田季何歌集『惑亂』
歌人クラブ東京ブロックで表彰された3人の歌集、今日は堀田季何の歌集『惑亂』をご紹介したい。『惑亂』とは難しい題名である。特に『亂』という漢字は私たちに馴染みがない。著者は英語で小、中、高、大学の教育を受けている、海外で中学生の頃から日本語で短歌を書いていたそうである。登校日より通院日の方が多かったほど病弱だった。『惑亂』から20首抄出して表彰式で中原兼彦かこの難しい歌集を丁寧に解説した。
堀田季何のプロフィール
1975年12月21日生まれ、現在は品川区在住 短歌、俳句、翻訳、評論などが専門。短歌は春日井建に師事、中部短歌同人 2015年 第一歌集『惑乱』を書肆侃侃房より発刊
386首の中から20首を中原兼彦が抄出、その中から私の好きな7首を選んでみた。
『惑亂』より七首
熱ありて白河夜船を漕ぎゆけば沈没前の朝(あした)のひかり
扉ひらき山手線は品川の空気吐きすて田町を吸へり
繪のなかの桃うまさうに見ゆるなり繪の前の桃くさりはじめて
絶望はゆっくり来るの。神様が少しよそ見をしてゐるすきに
潰されし蟻の隊列さかしまに辿りてゆけば智慧の樹のもと
いささかの余情をもちて珈琲の黎(くろ)きは碗の縁をよごせり
「わからない」 は答にあらず 我が国のデータは五割答にあらず
~ ~ ~
歌集名の『惑亂』は著者が漢字にこだわっているらしく、掲出の歌のなかにも私たちがほとんど使わない古い漢字がいくつもある。絵は『繪』 黒は『黎』など作者のこだわりが現れている。「絵」よりも「繪」のほうが奥行があり、珈琲は「黒」よりも「黎」のほうが香りがいい。日本を離れて育ち、日本の古い文化への郷愁なのか、「繪のなかの桃」はとてもおいしそうだ。端正な表現は春日井建の作品をおもわせる。堀田の歌を読みながら、私は日本の言葉についての知識が乏しく、無神経なように思われてきた。
堀田季何さま 日本で暮らしながら私は異邦人のような気がしています。
10月29日 松井多絵子
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