▴ 紫陽花の毒 ▴
✿ 紫陽花の葉に水羊羹をのせるとき和服の母があの世より来る 松井多絵子
狭い庭にあふれるように紫陽花が咲いている。五月の末から咲いているがまだ若い。三十代は過ぎたが四十半ばくらいか今日の花は。水色が青になりやや濃い青になった花毬もある。花々のなかの暗緑の葉に触れながら思い出す。六年位前だった、料亭の食事で食べた紫陽花の葉が原因で中毒になり、何人かが入院し、テレビなどで騒がれたことを。シソの葉のかわりに刺身に添えられていたの食べた人たちが中毒になったのだ。花を切り取るのはモッタイナイが葉は料理に使いたいと私が考えていた頃だった。塩漬けにした紫陽花の葉で包むオニギリは 「おいしいだろうなあ」 と。
母は紫陽花の花より葉を大切にしていた。水羊羹を葉の上にのせ新茶を飲みながら食べる。そのために紫陽花を大切に育てていたのだ。なぜか紫陽花の葉は誰も食べなかった。毒があるなどとは知らぬ母は、親しい人に水羊羹&紫陽花の葉での おもてなし。
曼珠沙華の根に毒があるらしいことは知っていた。鮮烈な赤い花を咲かせる曼珠沙華はいかにも毒がひそんでいる気配がする。でも紫陽花は泡だつような、時には海のさざ波のような花、絵本のアジサイの葉にはカタツムリがいることが多いが、私は一度も葉の表も裏にもカタツムリを見たことがない。葉には虫食いの跡もない。厚生労働省は注意の文書を出しているそうだ。青酸配糖体によるものだという説があるが紫陽花に含まれるのは少量らしい。決め手になる動物実験がない。やさしくて美しい女だって少しは毒がありますよね。
二日前、白山神社の紫陽花を見た。平日なのに大勢の人々。ふわふわの服の女たちが境内をうろうろ、花よりも女のほうが多いような、真昼だった。
✿ あじさいの夢の道にて今しがた出会いし人に会いたくなりぬ
6月14日 松井多絵子
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