植物園「 槐松亭 」

バラと蘭とその他もろもろの植物に囲まれ、野鳥と甲斐犬すみれと暮らす

斉白石印章 その虚実・真贋の狭間で  その2

2022年09月19日 | 篆刻
斉白石印章のようなものを、子細に調べております。

もし、ネットに掲載されている印が「真正」の斉先生のものだとして、ワタシが贋作者なら、まず「石」を似せる(同じ様な印材を探す)ことから始めるでしょう。側款の拓が公表されている(はずなので)からこそ、その贋作が作れます。その時に、似ても似つかぬ印材・印面の形状なら一発で偽物ということがばれます。

ワタシの持つ印が、一儲けをたくらむために作られた上記の印の偽物ならば、そして、ご丁寧に「鑑定印」まで張り付けて贋物に仕立てる周到さがあるなら、間違いなくその印も酷似させるでしょう。ネットの品には「寿山石高山」の説明があり、高山凍で、楕円に削られ獅子紐を施した印との説明になっています。写真で見る限り、磨き上げられた凍石には見えますが、関防印などに用いる縦長の印面の角材を楕円になるように丸く削り落としたものです。

ワタシの眼には比較的最近磨かれたような新材で、100年も前に調製されて、篆刻家の頂点に立つような人が選ぶにふさわしい「銘石」には見えませんでした。まして、売印では無い目的で彫られていますから。

仮に側款・印材に印の形が特定できない時代や状況であったとしても、少なくとも印面は完璧な摸刻を行うことになりますね。二つの印は側款がほぼ一致しているのに、ワタシの印の印面の文字は一字足りないのです。勿論印の底の形はかたやほぼきれいな楕円形、こちらは不整形であります。
右の側款は「是印質兄所蔵 惜印残断離 以拓観故 命余重刻趙之琛
六字原文 印下落一文字 七四歳 白石記 次閑 倣漢」と彫られています。恐らく左のワタシの判読も同じ文だと思われます。

そこで日本語に直すとこんな意味になるでしょう。
「この印は質兄さんが持っていたが、惜しいことに割れて分離している。自分は命を受けて、拓本を観てこの趙之琛の印を彫り直した。原文は6文字だったが一文字下落した。74歳になる(斉)白石が記した。次閑(趙之琛の字)が漢印風に刻したものである。」
壊れた(割れた)趙之琛(1852年没)作の印を所有者から頼まれて復刻したが、元は六文字で、石拓でも一字が失せて不明(読めない?)だったためか欠落しているといった意味でないかと推察するのです。

ではその一文字は何か。右の作品には「本」とありますが、「落花不是無情 」という言葉はよく見られます。また「落花本是无情 」と言う表現もあり、恐らく二つの意味は真逆です。本来詩的な表現を用いるならば、前者の「花が落ちるのは無情ではなく、春泥の頃にはまた咲く」といった表現がぴったりだと思います。花が散るのはまことに無情だなぁと言えば実もふたもない気がします。

いずれにせよ、次閑さんが彫った印の6字の一文字が欠けている(あるいは落とした)、と記した以上、文字が5文字になるのが当たり前、もし斉先生が付け加えたなら「加一文字」となるのではないかと思いますね。

そこで、結論1「ネットで出てきた楕円の紐付き印は、摸刻・復刻版あるいは贋作であって、斉白石さんの手になる印では無い」であります。篆刻家pekepekeさんに言わせれば「悪意ある贋作」と断定して差し支えないと思われます。換言すれば、ワタシの持つ印は、上記の印の摸刻や贋作ではないということが明白であります。

さて、そこで実物の印を再度具に見てみることにします。
まず、石の種類は特定できませんが、①田や水坑と言われる場所で採掘された「皮」付きの自然石 ②切断面(皮の内面)は灰白色微透明、やや薄茶色の斑が流れていて、高山凍に似る ③丸石全体は軽く磨かれている程度で艶出しを施していない ④2割程度がカットされて印面にされている などの特徴があります。

前のブログの中で説明したように、薄意や紐を施していないもので、相当古い印材であります。4.50年ほど前に発行された専門書でも、すでに田や川のほとりから産出されるもの、坑内を地下水が流れる水坑から掘り出すものはすでに採り尽くされ、ほとんどが岩盤を爆破したり重機で掘削するという粗っぽい採掘法に変わったと言われていますから、自然に丸くなって皮がついた自然石の産出は稀であるのです。

この印には側款は片面で、裏側にはなんの細工も無く、縦一筋に3㎝ほど切り込まれた傷があり、内部の石肌が露出しています。これが、おそらく数人か数十人かの手に渡る過程で、幾度か刃を当てて石の種類を鑑別した痕跡であります(ワタシも手を出しました)。そうせずにはおれないほど魅力的で妖しい石なのです。写真では見にくいですが、肌を軽く磨いただけで温潤な光沢が出ました。

印面はこんな状態ですが、あえて洗浄しておりません。
切断面の右端は、わざと少し削りへこませて印面を狭め、随所に小さな多くの点刻が見られます。これは自然石の粗い表面のテイストを出すためだろうと思います。印面自体は、擦過痕を残し、小さな穴を穿っているようです。これらは、彫り損なったり印面の磨きを手抜きしたのではありません。古趣や荒々しさを演出した印と見ます。

ここで、そろそろ予定稿となりました。続きはまた明日以降となります。
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