徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:辻村深月著、『太陽の坐る場所』(文春文庫)

2018年04月21日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

辻村深月は直木賞受賞作の『鍵のない夢を見る』以来気に入っている作家で、彼女の作品を制覇しようとしているところです(笑)

あらすじは『太陽の坐る場所』(文春文庫)の商品説明が分かりやすかったので引用します。

高校卒業から10年。クラス会で再会した仲間たちの話題は、人気女優となったクラスメートの「キョウコ」のこと。彼女を次のクラス会に呼び出そうと目論む常連メンバーだが、彼女に近づこうと画策することで思春期の幼く残酷だった“教室の悪意”が、まるでかさぶたを剥がすようにじわじわと甦り、次第に一人また一人と計画の舞台を降りてゆく……。28歳、大人になった男女5人の切迫した心情をそれぞれの視点から描き、深い共感を呼び起こす。圧巻の長篇心理サスペンス。

この作品の面白さは「高校時代に一体何があったのか」がなかなかはっきりと分からないところにあるのではないでしょうか。女優の「キョウコ」がクラス会に一度も来てない理由と関係があると思われている過去の出来事。

プロローグでは、「響子」が天照大御神が天岩戸に籠ったように体育館倉庫の中に籠るシーンがあり、「太陽はどこにあっても明るいのよ」と言って倉庫の扉が閉まり、プロローグが終わります。この時の響子の対話の相手が誰なのかは最終章の「出席番号7番」で初めて明らかにされます。この対峙シーンに至るいきさつが男女5人の視点を通じてだんだん明らかになっていくのですが、最終章の当事者視点になって初めて全貌が白日の下にさらされるような感じです。

プロローグに登場する「響子」が後の女優「キョウコ」であるかのように最初勘違いしていましたが、「きょうこ」さんは二人います。その紛らわしいミスリードは意図的だと思いますので、「きょうこさんは二人いる」と書くのはネタバレのうちに入るでしょう。

でもまあ、この小さなネタバレを差し置いても、28歳の悩める男女の心情は読みがいがあると思います。高校時代になんだかんだと囚われている人たち—しかも10年も引きずっていたとなると、随分インパクトのある高校時代だったのだなとむしろ関心してしまいます。私は高校時代に知り合った人たちと今でも何人かSNSを通して交流がありますが、同級生は一人も居なかったりします。高校卒業後3年目で渡独してしまったので、同窓会のようなのが催されたのかどうかすら知ることができませんでした。28歳のころにはすでにクラスメートの大半のことを忘れていたと思います。だから余計に彼ら彼女らの語る高校時代を多かれ少なかれ引きずって今に至る心情というものが興味深く感じられました。

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