徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評: 古賀 史健著、『取材・執筆・推敲――書く人の教科書』(ダイヤモンド社)

2022年02月01日 | 書評ーその他

「この一冊だけでいい。」100年後にも残る、「文章本の決定版」を作りました。(担当編集者:柿内芳文)
という煽りはいささか大げさかなと思いますが、『取材・執筆・推敲――書く人の教科書』は文章、特に読者を楽しませる「コンテンツ」を作る際の基本姿勢について、取材から執筆、そして推敲に至るまでのプロセスを通して語ります。
取材・推敲・執筆の3部構成、全9章。序論のライターの定義の部分を入れれば全10章になる本書はなかなかの大作です。

目次
──取 材(第1部)──

第1章 すべては「読む」からはじまる
・一冊の本を読むように「世界」を読む
・なぜ、あなたの文章はつまらないのか
・情報をキャッチせず「ジャッジ」せよ
……等

第2章 なにを訊き、どう聴くのか
・なぜ取材はむずかしいのか
・取材を「面接」にしてはいけない
・質問力を鍛える「つなぎことば」
……等

第3章 調べること、考えること
・取材には3つの段階がある
・わかりにくい文章が生まれる理由
・その人固有の文体をつかむ
……等

──執 筆(第2部)──

第4章 文章の基本構造
・書くのではなく、翻訳する
・ことばにとっての遠近法
・わかりにくい日本語と起承転結
……等

第5章 構成をどう考えるか
・構成力を鍛える絵本思考
・桃太郎を10枚の絵で説明する
・バスの行き先を提示せよ
……等

第6章 原稿のスタイルを知る
・本の構成1 いかにして「体験」を設計するか
・インタビュー原稿1 情報よりも「人」を描く
・対談原稿1 対談とインタビューの違いとは
……等

第7章 原稿をつくる
・リズム2 「ふたつのB」を意識せよ
・レトリック1 想像力に補助線を引く
・ストーリー4 起承転結は「承」で決まる
……等

──推 敲(第3部)──

第8章 推敲という名の取材
・推敲とは「自分への取材」である
・音読、異読、ペン読の3ステップを
・最強の読者を降臨させる

第9章 原稿を「書き上げる」ために
・プロフェッショナルの条件
・フィードバックもまた取材である
・原稿はどこで書き上がるのか
……等

「執筆」の技術・テクニックについて書いたハウツー本は多いですが、その前後の取材と推敲について書いた本はほとんどないのではないでしょうか。
具体的なハウツー・テクニックをこの「教科書」に期待した人は失望せざるを得ない。本書は書く人の姿勢とコンテンツ作りの原理原則が本題だからだ。
書く内容の設計図ができて、十分に取材や調査ができてから初めて書き出すという方法は、松岡圭祐氏の小説の書き方に通ずるものがあります。彼もキャラクターとロケーションを設定したあとは物語を頭の中でだけ紡いでいき、物語が完成したら一気に書き下ろすということを『小説家になって億を稼ごう』で語っていた。

目から鱗が落ちると同時に耳が痛いと感じたのは、古賀史健氏の説く推敲の際の姿勢です。自分の書いた文章から距離を置くためにフォーマットを変えたり、書体を変えたり工夫し、初めてその内容を読む厳しい読者になったつもりで読む必要があると力説されるだけでも耳が痛いのに、推敲に「せっかく書いたのにもったいない」といった気持ちを持ち込んではいけないとか、構成上余分なところはバッサリ切れとか、最悪の場合はゼロから書き直せとか。なんともまあ厳格な心構えですね。
そうやって厳しく推敲し、「もっと面白く、もっとよくできるはず」と自分の限界を超えさせ、より完成度の高いものを書き上げることこそが読者に対する敬意だという説に彼のライターとしての矜持が感じられます。

私は自分の「甘い読者」でしかなかったと反省しました。
ごまかしや雑さは結局のところ読者を侮っているのだという言が胸に突き刺さる。
書評は自分の備忘録として相変わらずつらつら書いてますが、毎週配信しているメルマガや自分のオンラインサロンでの投稿記事を書くときはもっと真摯な姿勢で臨もうと決意しました。