教室(きょうしつ)へ入るなり、斉藤(さいとう)君は友達(ともだち)の横に座(すわ)ってひそひそと呟(つぶや)いた。
「俺(おれ)、すごい本(ほん)見つけちゃったよ。これで恋人(こいびと)を作(つく)ろうと思うんだ」
友達は<恋人の作り方>という本のタイトルを見て、怪訝(けげん)な顔をした。
斉藤君はさらに声をひそめて、「校内(こうない)の購買(こうばい)で見つけたんだ。お前にだけ見せてやるよ」
友達はその本をパラパラとめくりながら、「お前、いくらで買ったんだよ?」
「1万円さ。1万で恋人ができるんだぞ。安いもんだろ。お前にもさ――」
「お前、バカか? こんなもんに1万なんて。これ、どう見たって、誰(だれ)かが手作(てづく)りで作ったやつじゃないか。お前、欺(だま)されてんだよ」
「なに言ってんだ。校内の購買だぞ。そんなとこで欺す奴(やつ)なんかいないだろ。購買のおばちゃんだって、これ買ったとき、『がんばんなよ』って言ってくれたんだ」
友達は呆(あき)れるばかり。斉藤君は本を取り上げると、最初(さいしょ)のページをめくった。
「ここに恋人の探(さが)し方ってのが書いてあるんだ。いいか、こうだ。校内のベンチで一人で座っている娘(こ)を見かけたら声をかけるべし。――俺(おれ)さ、これからやってみようと思うんだ」
友達は嫌々(いやいや)ながら斉藤君に付き合うことに。確(たし)かに、校内にはいくつかベンチが置かれている。二人はひとつひとつ確認(かくにん)していった。そして、その中のひとつに美しい女子が一人で座っているのを見つけた。二人は色めき立った。斉藤君は友達を押(お)さえ込んで言った。
「俺の1万円だ。お前、絶対(ぜったい)、手を出すんじゃないぞ。俺のだからな」
<つぶやき>ダメですよ。女性をそんな風に見てはいけません。でも、これって罠(わな)じゃ?
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