「ねえ、なに難(むずか)しそうな顔で黙(だま)ってんのよ」甘菜(かんな)は心配(しんぱい)そうに言った。
「どちらかを選(えら)ばなきゃいけないとしたら、どうやって決(き)めたらいいのかな?」
良江(よしえ)は真剣(しんけん)に悩(なや)んでいるようだ。甘菜は何のことか分からないので訊(き)き返すと、
「だから、昨日、好きな人に告白(こくはく)したのね。そしたら、別の人から告白されちゃって」
「なにそれ。あんたってそんなにモテたっけ? 何か、ムカつくんですけど。で、何よ。その告白した人は、付き合ってくれるの?」
「それが、反応(はんのう)が鈍(にぶ)いっていうか…。考えさせてくれって」
「そりゃ無理(むり)ね。やんわりと断(ことわ)ってんだよ。で、告白してきた人には?」
「そんなの、分かんないよ。決められないから悩んでるんじゃない」
甘菜は少し離(はな)れたところに座ってこっちを見つめている男性に気がついた。
「ねえ、さっきからこっちを見てる男がいるんだけど。振(ふ)り向かないで。さり気(げ)なくよ」
良江は首(くび)を不自然(ふしぜん)に動かしながらまわりを見回した。男を見つけると、急に背(せ)をかがめて小さな声でささやいた。「あの人よ。私に告白したの」
「えっ。何で、何でここにいるのよ。あの人、あんたとは、どういう知り合いなの?」
「よく知らないわ。たまに街(まち)で見かける人で、お話したのだって昨日が初めてで…」
「なに考えてんのよ。誰(だれ)だか分かんないのに…、そんな人と付き合えるの? もう、世間(せけん)知らずもいい加減(かげん)にしてよ。今から断ってらっしゃい。あたしもついてってあげるから」
<つぶやき>知らない人から声をかけられてもついて行っちゃダメです。大人なんだから。
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