二人は駆(か)け出した。途中(とちゅう)、神崎(かんざき)つくねは足を止めるとアパートの方へ振(ふ)り返り、リモコンのスイッチを押(お)した。すると小さな爆発音(ばくはつおん)が何度かして、アパートが音をたてて崩(くず)れ落ちた。その音に驚(おどろ)いて、月島(つきしま)しずくが振り返って声を上げる。
「ええっ! 何で? どうしちゃったの…」
目を丸(まる)くしているしずくに、つくねは平然(へいぜん)と言った。「大丈夫(だいじょうぶ)よ。これくらいのことで死(し)ぬような人たちじゃないから。さあ、行きましょ」
二人は薄暗(うすぐら)い細い路地(ろじ)を歩き出した。誰(だれ)も追(お)って来る気配(けはい)はなかった。しずくは、ますます分からなくなった。つくねがどういう娘(こ)なのか…。
「ねえ、これからどうするの?」しずくは訊(き)いてみた。
つくねはそれに答えて、「それより、靴(くつ)をはいたら? もう遅(おそ)いか、汚(よご)れちゃってる」
靴をはいている余裕(よゆう)などなかった。おかげで、しずくの靴下(くつした)は真っ黒になっている。
「そういうあなただって、寝巻(ねまき)のままじゃない」つくねは言い返(かえ)した。
「でも、あたしはちゃんと靴をはいてるわ」
二人は顔を見合わせると、クスクスと笑(わら)った。つくねは呟(つぶや)いて、「どっかで着替(きが)えなきゃ」
しずくは、つくねの腕(うで)をつかむと引っぱって、「私に任(まか)せて。私の家、すぐ近くなのよ。生意気(なまいき)な弟(おとうと)がいるけど、家族(かぞく)みんな、大歓迎(だいかんげい)よ!」
しずくは嫌(いや)がるつくねを無理矢理(むりやり)引っぱって歩き始めた。
<つぶやき>アパートを爆破(ばくは)させるなんて、一体(いったい)この娘は何者なのか? あの人たちって?
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