私の家族(かぞく)には問題(もんだい)がある。父はリストラで、ただいま就活(しゅうかつ)中。毎朝出かけるのだが、どこへ行っているのか未(いま)だに仕事(しごと)は見つかっていないようだ。母はアイドルグループにはまり、家事(かじ)を放棄(ほうき)。追(お)っかけをやっているようで、家で顔を見ることは滅多(めった)にない。兄は仕事のストレスから、部屋に引きこもったまま出ようとしない。弟(おとうと)は彼女に夢中(むちゅう)で、バイト代の全(すべ)てを貢(みつ)いでいる。
家族の中で、私だけだ。この家を守るために必死(ひっし)に働(はたら)いているのは。いくつものパートをかけ持ちし、なりふり構(かま)わず休みなしに――。でも、私がいくら働いても、この家の家計(かけい)はすでに破綻寸前(はたんすんぜん)まで来ていた。私も、もう限界(げんかい)。こんな生活(せいかつ)から逃(に)げ出したかった。
彼に巡(めぐ)り合ったのは、そんな時だ。彼とは仕事場で出会い、彼のちょっとした優(やさ)しさに、私の心は癒(いや)された。彼と一緒(いっしょ)に働いている時間が、私にはとても大切(たいせつ)なものになった。
私たちが恋(こい)に落ちるのに、さほど時間はかからなかった。いつしか二人で未来(みらい)を語り、幸せにみちた家庭(かてい)を夢(ゆめ)みていた。実現(じつげん)なんかするはずもないのに…。
出会ってから一か月。彼は私にプロポーズした。……結婚(けっこん)。今の私には、一番縁(えん)の無い言葉だ。私は思わず、この甘(あま)い言葉にすがろうとした。でも、それはできない。そんなことをしたら、私の家族は崩壊(ほうかい)してしまう。私は、首(くび)を横に振った。涙(なみだ)で彼の顔が見えない。
彼は私を優しく抱(だ)きしめて言った。「君(きみ)の荷物(にもつ)を、僕(ぼく)に分けてください。二人なら乗り切れるから。僕は、いつも君のそばにいるよ。君をちゃんと守るから」
<つぶやき>辛(つら)いときに優しく手を差しのべてくれる。そんな人がいてくれたらいいのに。
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