「まあ、ステキな場所(ばしょ)ね。こんな所があるんなら、もっと早く教えてよ」
赤ずきんは怒(おこ)ったふりをしてみせる。猟師(りょうし)のボーイフレンドはそんな彼女を見て言った。
「君(きみ)も18だね。これは僕(ぼく)からの誕生日(たんじょうび)プレゼントだよ。この森の中で一番美しい場所さ」
「ありがとう。あなたが、こんなことをする人だとは思わなかったわ。もっと――」
その時、森の中がざわついた。何かの気配(けはい)が、二人のまわりを取り囲(かこ)んだ。枯(か)れ枝(えだ)の折(お)れる音がピシッ、ピシッと聞こえてくる。猟師の青年(せいねん)は持っていた銃(じゅう)を構(かま)える。木立(こだ)ちの間の暗(くら)がりに、狼(おおかみ)の二つの目がいくつも見え隠(かく)れしていた。赤ずきんは身体(からだ)をこわばらせた。だが青年は何を思ったか、突然(とつぜん)、銃口(じゅうこう)を赤ずきんに向け不気味(ぶきみ)な笑(え)みを浮(う)かべた。
「やっとこの日が来た。お前はここで死(し)ぬんだ。俺(おれ)たちの森で…」
青年は銃を下ろすと、口を大きく開けて見せて、「でも、銃なんかじゃ殺(ころ)さない。俺の口で、お前の肉(にく)を切り裂(さ)いてやる。お前は苦(くる)しみながら死んで行くんだ」
赤ずきんは震(ふる)える声で言った。「あたしの彼をどこへやったの?」
「ああ。あの猟師なら、今頃、俺の兄弟(きょうだい)の腹(はら)の中さ」
青年は赤ずきんを押(お)し倒(たお)し、地面(じめん)に押さえつけた。青年の姿(すがた)は、もう人間ではなかった。その獣(けもの)は、涎(よだれ)を赤ずきんの胸元(むなもと)にたらし、彼女の胸(むね)に食(く)らいつこうとした。その時、銃声(じゅうせい)が森の中に響(ひび)き渡(わた)った。獣たちは、慌(あわ)ててその場から逃(に)げ出した。
<つぶやき>彼が助けに来てくれたんだね。狼さんもこれで諦(あきら)めてくれるといいんだけど。
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