みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0483「きな子」

2019-03-09 18:27:23 | ブログ短編

 彼女はきな子に話しかけた。きな子とは、彼女が飼(か)っている茶トラ猫(ねこ)だ。
「今日、彼に告白(こくはく)されたんだけど…。付き合っちゃってもいいかな?」
 きな子は目を細(ほそ)めてそっぽを向いた。あたしに男の話をされても、分かるわけないでしょ。とでも言いたげである。
 彼女はそんなことお構(かま)いなしに、きな子を抱(だ)きあげ膝(ひざ)の上にのせると、
「彼ね、付き合ってた人がいたらしいの。友達から聞いた話なんだけど、まだその人と続いてるんじゃないかって。私も、それとなく彼に訊(き)いてみたの。そしたら、今は誰(だれ)とも付き合ってないって。でもね、何かウソっぽいのよ。だって、私と会ってる時でも、こそこそメールなんか確認(かくにん)しちゃって。好きな人を前にして、普通(ふつう)そんなことしないでしょ――」
 彼女のおしゃべりはいつまで続くのか。きな子もそろそろ限界(げんかい)に来ていた。
「ほら、まだ私たち、ちゃんと付き合ってるわけじゃないじゃない。だから、断(ことわ)るとしたら今だと思うの。――でも、彼って、ちょっと格好(かっこ)いいのよね。もう、悩(なや)んじゃうわ」
 人間って面倒(めんど)くさいのね。きな子は頭をなでられながら思っていた。あたしだったら、近寄って来た雄猫(おすねこ)を見ただけで、善(よ)し悪(あ)しを判断(はんだん)できるのに。
 きな子は彼女の顔を見上げて、一声鳴(な)いた。そして、彼女の手をすり抜(ぬ)けて床(ゆか)へ下りると、トイレへ一目散(いちもくさん)に走って行った。
<つぶやき>人間のおしゃべりに付き合うのもペットのお仕事(しごと)なのかもね。がんばれっ!
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