みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0498「執着心」

2019-03-26 18:25:54 | ブログ短編

「えっ、引っ越すの?」幸恵(ゆきえ)は唖然(あぜん)として知佳(ちか)の顔を凝視(ぎょうし)した。
「そうなの。急にパパの転勤(てんきん)が決まって。来週には――」
 幸恵は知佳の手を取ると、力いっぱい握(にぎ)りしめて言った。
「ダメよ! 私たち、ずっと友達(ともだち)だって約束(やくそく)したじゃない。どこにも行かないで!」
 知佳は思わず、「痛(いた)いわ。…幸(ゆき)ちゃん、離(はな)してよ」
 幸恵は構(かま)わずに、グイグイと知佳を引っ張って歩き出した。知佳は恐(こわ)くなって、
「ねえ、どうしちゃったの? やめてよ。離して…」
「私、離さないわよ。知佳だって、私と別れたくないでしょ。私が何とかするから」
 幸恵は使われなくなった工場(こうじょう)の倉庫(そうこ)へ知佳を連れて来た。重い扉(とびら)についた鎖(くさり)を外(はず)すと、扉の中へ知佳を押(お)し込めて幸恵は言った。
「心配(しんぱい)しないで。ここはパパの工場なの。だから誰(だれ)も来ないわ。ここにいれば、ずーっと一緒(いっしょ)にいられる。これから、毎日逢(あ)えるわね。楽しみ」幸恵は本当(ほんとう)に嬉(うれ)しそうに笑(わら)った。
 知佳は懇願(こんがん)するように、「ねえ、あたし、帰りたい。お家に帰りたいの。お願い!」
 幸恵は、逃(に)げ出そうとする知佳を押し倒(たお)して重い扉を閉めた。外から鎖を巻きつける冷たい音が響(ひび)いた。薄暗い倉庫の中で知佳は途方(とほう)に暮(く)れた。ふと、手に何かが触(ふ)れた。目をこらして見てみると、それは何か動物(どうぶつ)の骨(ほね)のように見えた。
<つぶやき>執着(しゅうちゃく)って恐いよ。でも執着がなくなれば、何もなかったように忘(わす)れちゃう。
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