神崎(かんざき)つくねの部屋(へや)は六畳一間(ろくじょうひとま)で小さなキッチンスペースが申し訳程度(ていど)についている。あとは襖(ふすま)で仕切(しき)られた押(お)し入れがあるだけだ。部屋の中は小ぎれいに片づけられている。というか、必要(ひつよう)な物以外は何もないって感じだった。キョロキョロと部屋の中を見ている月島(つきしま)しずくを見て、つくねは恥(は)ずかしそうに言った。
「何もないでしょ。いつでも引っ越せるように、余分(よぶん)な物は買わないようにしてるの」
「へぇ、そうなんだ」しずくは急に思い出して鞄(かばん)の中から例(れい)の封筒(ふうとう)を取り出した。
「これ、先生からね。渡(わた)してくれって頼(たの)まれたの。だから…」
つくねは封筒を受け取ると、「ありがとう。あなたが来てくれてよかったわ」
「ほんとに具合(ぐあい)が悪(わる)かったのね」しずくは敷(し)かれたままになっている布団(ふとん)を見て言った。
つくねは、学校では見せたことのない表情(ひょうじょう)をして、「あたし一人暮(ぐ)らしなのよ。学校には親(おや)と同居(どうきょ)って言ってあるから、先生にバレたら大変(たいへん)な事(こと)になるとこだったわ」
「えっ、どうして一緒(いっしょ)に住んでないの?」しずくは思わず訊(き)いてしまった。
つくねは一瞬(いっしゅん)、表情を曇(くも)らせた。しずくの顔をじっと見つめると、微(かす)かに笑(え)みを浮かべて、「そんなに訊きたい? じゃあ、今日のことは誰(だれ)にも話さないって約束(やくそく)してくれる?」
しずくは大きく肯(うなず)いた。「もちろんよ。誰にも話さないわ。私たちだけの秘密(ひみつ)よ」
「あたしの両親(りょうしん)はね、もうこの世界にはいないわ。殺(ころ)されちゃったの」
<つぶやき>衝撃(しょうげき)の事実(じじつ)が明かされる。つくねの過去(かこ)に何があったのか? しずくは…。
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