どのくらいおしゃべりをしたのか、いつの間にか夜になっていた。月島(つきしま)しずくは家へ帰ろうと立ち上がった。その時だ。神崎(かんざき)つくねが急に頭を押(お)さえて苦(くる)しみ出した。
しずくは慌(あわ)ててかけ寄り、「どうしたの? 大丈夫(だいじょうぶ)? しっかりして…」
痛(いた)みはすぐに治(おさ)まったようで、つくねは目を見開いて呟(つぶや)いた。「何で気づかなかったの」
つくねは急いでドアに鍵(かぎ)をかけると、大きなリュックに荷物(にもつ)を詰(つ)め始めた。しずくは理由(わけ)が分からずおろおろするばかり。その時、外から階段(かいだん)を上がってくる足音が響(ひび)いてきた。一段一段踏(ふ)みしめるたびに、階段がきしむ鈍(にぶ)い音が悲鳴(ひめい)のようだ。突然(とつぜん)、低い呻(うめ)き声が聞こえてきた。誰(だれ)かが壊(こわ)れた階段を踏みはずしたのだ。しずくは急いで外へ出ようとしたが、つくねがそれを止めて、「行っちゃダメ! ここに住んでるのはあたしだけよ。すぐに逃(に)げなきゃ」
つくねは窓(まど)を開けると、縄(なわ)ばしごを下へたらして、「さあ、ここから降(お)りるの!」
もたもたしているしずくをせき立てる。靴(くつ)と鞄(かばん)を窓から放り投げると、しずくは縄ばしごを下りはじめた。突然、ドアをノックする音が響いた。続いてドアノブをガチャガチャさせる音。つくねは窓からリュックを放り投げた。あやうく下にいたしずくの頭に当たるところだったので、しずくは思わず尻(しり)もちをついてしまった。と同時に、つくねが一気に縄ばしごを滑(すべ)り降りてきた。
<つぶやき>どうしたというのでしょ。誰かに狙(ねら)われてる? 両親の死と関係(かんけい)があるのか。
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