いつも通(どお)りの朝。月島(つきしま)しずくは眠(ねむ)そうな目で食卓(しょくたく)についた。楽しそうにおしゃべりしている母親、ふざけている弟(おとうと)に、何だかご機嫌(きげん)ななめの神崎(かんざき)つくね。父親はもう出かけてしまったのか、食べ終わった食器(しょっき)がそのままになっている。
昨夜(ゆうべ)、帰りが遅(おそ)くなったことを口にする者(もの)はいなかった。それもあって、あえてしずくも何も言わなかった。何だか気がとがめて、もやもやした感じが残(のこ)っている。それでも学校(がっこう)へは行かなくてはいけない。子供(こども)たちはそれぞれに家を飛(と)び出して行った。あいかわらず、つくねはしずくとは違(ちが)う道(みち)を歩いて行く。どの道を通(とお)るのか知らないが、しずくよりも先に学校に着いているので近道(ちかみち)があるのかもしれない。
子供たちを見送(みおく)った母親は、食事(しょくじ)の後片(あとかた)づけを手早(てばや)く済(す)ませると、何かを待っているようにテーブルについた。しばらくすると、ひとり言のように呟(つぶや)いた。
「お久(ひさ)しぶりね。あなたが来たってことは…」
いつの間(ま)にか、母親の後ろに髪(かみ)の長い黒服(くろふく)の女が立っていた。女教師(きょうし)の柊(ひいらぎ)あずみだ。
「楓(かえで)おばさん、大事(だいじ)な話があるの。分かってるとは思うけど…」
母親はあずみの顔を見つめて、いつもの笑顔(えがお)で言った。「あなた、お母さんに似(に)てきたわね。昔(むかし)に戻(もど)ったみたい。まあ、お座(すわ)りなさいよ。今、お茶(ちゃ)を淹(い)れるわ」
<つぶやき>この二人は、どうやら知り合いのようです。大事な話って何なのでしょうか。
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