海賊(かいぞく)島に一ヵ所だけある砂浜(すなはま)。二百メートルほどあるだろうか、昔(むかし)は波(なみ)が打ち寄せる美しい海岸(かいがん)だったのだろう。だが、今はそこら中に穴(あな)が開けられ見る影(かげ)もない。
林田(はやしだ)と久美子(くみこ)は唖然(あぜん)としてその風景(ふうけい)を眺(なが)めていた。伊集院(いじゅういん)だけは、なぜかほくそ笑(え)んでいる。久美子が悲(かな)しげに言った。
「ひどいよ、これ。これじゃ、パラソルも立てられないし、お肌(はだ)を焼(や)くことだって…」
伊集院はあきれて言った。「お前、そこかよ。違(ちが)うだろ? これは傲慢(ごうまん)な人間(にんげん)の――」
その時、横に突(つ)っ立っていた林田が荷物(にもつ)をおろして声をあげた。
「あーっ、腹(はら)へった。メシにしないか? これじゃ、いくら探(さが)してもお宝(たから)なんか――」
伊集院が反論(はんろん)するかと思いきや、唐突(とうとつ)に笑(わら)いだして、
「ハハハ。そうさ、ここに宝はない。それが確認(かくにん)できてよかったよ。さあ、次へ行こう」
「ちょっと待てよ」林田が伊集院を睨(にら)みつけて言った。「ほんとにあんのかよ。これだけ大勢(おおぜい)の人間が探してるんだ。もうとっくに誰(だれ)かが見つけてるさ」
伊集院は鼻(はな)で笑って、「フン。俺(おれ)が何のために古文書(こもんじょ)を読みあさっていたか分かるか?」
「お前、そんな趣味(しゅみ)があったのか? やっぱり、変なヤツだったんだ」
久美子も思わず後(あと)ずさって、「えっ、伊集院ってオタクだったの? いやだ…」
「俺は、オタクじゃない! あんな奴(やつ)らと一緒(いっしょ)にするな。俺は崇高(すうこう)な目的(もくてき)を持って――」
<つぶやき>伊集院の演説(えんぜつ)が続(つづ)くのですが、あんまり長いので、ここで切っちゃいますね。
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