私の彼には人に言えない弱点(じゃくてん)がある。初めてそれを知ったとき、私は思わず笑(わら)ってしまった。でも、私、そういうの嫌(きら)いじゃないわよ。誰(だれ)にだって、そういうのあると思う。
彼が私の部屋(へや)へ初めて来たときのことだ。夕食(ゆうしょく)も終わって、二人で食器(しょっき)を洗(あら)ったりしてたとき。――彼が突然(とつぜん)、後ろから私の身体(からだ)をギュッとしてきた。まったく、男ってすぐそういうこと…。
でも、それは違(ちが)っていた。彼は、私をつかんだまま、キッチンから離(はな)れて、ギャーッと大声を上げた。私は、一瞬(いっしゅん)なにが起きたのか分からなかった。彼はキッチンの方を指(ゆび)さして、「出た、出た!」を繰(く)り返す。私は、その先を見て納得(なっとく)した。
「なんだ。Gじゃない。そんなに驚(おどろ)かなくても」
ここで言っておきますけど、私、決(けっ)して片(かた)づけられない女じゃありませんから。掃除(そうじ)とかちゃんとしてます。私、出身(しゅっしん)が田舎(いなか)の方だから、こういうの普通(ふつう)のことなんだけどな。
それ以来(いらい)、彼は、私の部屋へ入る前に必(かなら)ず訊(き)くようになった。
「あれ、いないよな。絶対(ぜったい)、いないよな…」
私、それを聞くたびに、クスクスと笑ってしまう。普段(ふだん)は体育会系の頼(たの)もしい彼なのに…。後で聞いた話なんだけど。彼が子供のとき、Gが急(きゅう)に飛(と)んで来て顔にとまったことがあるらしい。それから、まったくダメになったそうだ。
これって、何かにつかえるかな――。そんなことを考える私は、もしかして悪女(あくじょ)かも。
<つぶやき>Gはどこにでも入り込む、したたかな生物(せいぶつ)です。でも、その上を行くのが…。
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