その時だ。どこからか人の話し声がした。そして、木々(きぎ)の間からチラチラと灯(あか)りが見え隠(かく)れする。伊集院(いじゅういん)と久美子(くみこ)は顔を見合わせて、祠(ほこら)の後ろの茂(しげ)みに身(み)を潜(ひそ)めた。林田(はやしだ)は祠の方へ行こうとしたが、足元(あしもと)を滑(すべ)らせて目の前の斜面(しゃめん)を滑り落ちて行った。
話し声がだんだん大きくなり、松明(たいまつ)の灯りが飛び出して来た。灯りの中に浮(う)かんでいる数人の人影(ひとかげ)。どうやら、この島の若者(わかもの)たちのようだ。
「絶対(ぜったい)間違(まちが)いないよ。さっきのは女の子の悲鳴(ひめい)だって」
「お前な、こんな時間に、こんなところに来る娘(むすめ)なんていないだろ」
「そうだぞ。きっとフクロウの鳴(な)き声だったんじゃないのか。それとも、島神(しまがみ)様の――」
「よせよ。島神なんて信じてるのか?」
若者たちは広場に点在(てんざい)している岩(いわ)の上に腰(こし)を下ろした。その途端(とたん)に、一番若い男が悲鳴を上げた。一瞬(いっしゅん)、みんなの目線(めせん)が一点に集中(しゅうちゅう)する。その先(さき)にあったのは、あの死体(したい)…。
リーダーらしき男が声をあげた。「誰(だれ)だよ。ちゃんと隠しとけって言ったろ」
「ああ、隠してた枝(えだ)が風で落ちたんだ」そう言うと、一人の男が死体に近づいて行き、
「大丈夫(だいじょうぶ)だ。こっちは壊(こわ)れてない」
伊集院と久美子は、この会話(かいわ)を聞いてクスクスと吹(ふ)き出した。
<つぶやき>死体じゃなかったみたい。でも、この若者たちは何だってこんな時間に…。
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