学校へ向かう月島(つきしま)しずくの足取(あしど)りは重(おも)かった。今まで起きてきたいろんな出来事(できごと)や身体(からだ)の変化(へんか)に、心(こころ)がついていけないのだ。そのアンバランスで情緒不安定(じょうちょふあんてい)に陥(おちい)っていた。しずくは、自分を追(お)い越(こ)していく他の生徒(せいと)たちを見つめながら、ため息(いき)をついた。
その時だ。水木涼(みずきりょう)が、脇道(わきみち)から飛(と)び出して来て、あやうくしずくは転(ころ)びそうになってしまった。涼はしずくを抱(だ)き止めて言った。「ごめん。ちょっと急(いそ)いでたもんだから…」
涼は抱き止めた相手(あいて)がしずくだと分かると、
「なんだ、しずくか…。もう、ちゃんとよけてよ。危(あぶ)ないじゃない」
まったく勝手(かって)な言い分である。しずくは反射的(はんしゃてき)に、「ご、ごめんなさい」と返事(へんじ)を返した。
涼はしずくを脇道の方へ引っ張っていくと、声をひそめて言った。
「私、すっごいの見つけちゃったの。ちょっと一緒(いっしょ)に来てよ」
涼はしずくの返事も聞かずに、しずくの手をつかむと走り出した。しずくは走りながら、
「ちょっと、待ってよ。……寄(よ)り道なんかしてたら、学校に遅(おく)れちゃうわ」
「大丈夫(だいじょうぶ)よ、すぐだから。あんたに、どうしても見せたいの」
こうなったら、もうどうすることもできない。猪突猛進(ちょとつもうしん)の涼について行くしかないと、しずくは諦(あきら)めた。涼は、学校の裏手(うらて)にある林(はやし)の方へ突(つ)き進んで行った。
<つぶやき>すっごいのって何でしょう。でも、寄り道してたらほんとに遅刻しちゃうよ。
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