柊(ひいらぎ)あずみは、月島楓(つきしまかえで)がお茶(ちゃ)を出してテーブルに着くのを待って言った。
「おばさん、あいつらの手がここまで伸(の)び始めているわ。もう時間がないの…」
「分かってる。準備(じゅんび)はもうできてるのよ。今夜、ここを離(はな)れるわ」
楓はキッチンを見回(みまわ)して呟(つぶや)いた。「もう少しここにいられると思ったのに、残念(ざんねん)だわ」
「おばさん…」あずみは言いにくそうに、「もう一つ、言っておかないといけないことが…」
「しずくのことね。あの子には、別の道(みち)を歩いてほしかったんだけど…」
「ねえ、おばさん。本当(ほんとう)にしずくには特別(とくべつ)な能力(ちから)があるの? 私にはとてもそうは思えない」
「シマばあちゃんの最後(さいご)の予言(よげん)よ。きっと間違(まちが)いないわ。しずくにどんな能力(ちから)があるのか、私にも分からないけど。――あの子も、自分の能力(ちから)には気づいてるはずよ。でも、無意識(むいしき)のうちに、その能力(ちから)を抑(おさ)え込んでしまっているの」
あずみは小さなため息(いき)をついて、「きっかけね。私もいろいろやってみたんだけど…。こんなにてこずる娘(こ)は始めてよ。頑固(がんこ)っていうか――」
楓はクスクス笑(わら)って、「あなたも、相当(そうとう)頑固だったわよ。だから、あなたに任(まか)せたの」
「私には荷(に)が重(おも)いわ。私、おばさんみたいに上手(うま)くできるかどうか…」
「大丈夫(だいじょうぶ)よ。あなたならきっと…。しずくのこと、よろしくね。私には、もう家族(かぞく)を守(まも)る能力(ちから)も無くなってきてる。あの娘(こ)の足手(あしで)まといにだけは、なりたくないの」
<つぶやき>母は子供(こども)のためには何だってしちゃうんです。たとえそれが危険(きけん)なことでも。
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