みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0498「執着心」

2019-03-26 18:25:54 | ブログ短編

「えっ、引っ越すの?」幸恵(ゆきえ)は唖然(あぜん)として知佳(ちか)の顔を凝視(ぎょうし)した。
「そうなの。急にパパの転勤(てんきん)が決まって。来週には――」
 幸恵は知佳の手を取ると、力いっぱい握(にぎ)りしめて言った。
「ダメよ! 私たち、ずっと友達(ともだち)だって約束(やくそく)したじゃない。どこにも行かないで!」
 知佳は思わず、「痛(いた)いわ。…幸(ゆき)ちゃん、離(はな)してよ」
 幸恵は構(かま)わずに、グイグイと知佳を引っ張って歩き出した。知佳は恐(こわ)くなって、
「ねえ、どうしちゃったの? やめてよ。離して…」
「私、離さないわよ。知佳だって、私と別れたくないでしょ。私が何とかするから」
 幸恵は使われなくなった工場(こうじょう)の倉庫(そうこ)へ知佳を連れて来た。重い扉(とびら)についた鎖(くさり)を外(はず)すと、扉の中へ知佳を押(お)し込めて幸恵は言った。
「心配(しんぱい)しないで。ここはパパの工場なの。だから誰(だれ)も来ないわ。ここにいれば、ずーっと一緒(いっしょ)にいられる。これから、毎日逢(あ)えるわね。楽しみ」幸恵は本当(ほんとう)に嬉(うれ)しそうに笑(わら)った。
 知佳は懇願(こんがん)するように、「ねえ、あたし、帰りたい。お家に帰りたいの。お願い!」
 幸恵は、逃(に)げ出そうとする知佳を押し倒(たお)して重い扉を閉めた。外から鎖を巻きつける冷たい音が響(ひび)いた。薄暗い倉庫の中で知佳は途方(とほう)に暮(く)れた。ふと、手に何かが触(ふ)れた。目をこらして見てみると、それは何か動物(どうぶつ)の骨(ほね)のように見えた。
<つぶやき>執着(しゅうちゃく)って恐いよ。でも執着がなくなれば、何もなかったように忘(わす)れちゃう。
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0497「全球凍結」

2019-03-25 18:38:40 | ブログ短編

 テレビのニュース番組(ばんぐみ)が、いま地球規模(きぼ)で起こっている異常気象(いじょうきしょう)について解説(かいせつ)していた。地球の平均(へいきん)気温が最大1度下がっていると。しかも気温(きおん)低下の割合(わりあい)が徐々(じょじょ)に増(ふ)えているらしい。このままでいくと、あと半年もしないうちに地球の様子(ようす)は一変(いっぺん)してしまうだろう。
 大学の研究室(けんきゅうしつ)でニュースを見ながら、山崎(やまさき)は頭を掻(か)きむしった。気温低下(ていか)の原因(げんいん)が全くつかめなかったからだ。そこへ、同僚(どうりょう)の斉藤(さいとう)が駆(か)け込んで来て叫(さけ)んだ。
「最新(さいしん)のデータが届(とど)きました。いまモニターに出します」
 斉藤がパソコンを操作(そうさ)すると、大きなモニターに地球が映(うつ)し出された。人工衛星(じんこうえいせい)からのデータを元(もと)に作られた地球の大気(たいき)の様子(ようす)を現したものだ。それを見た山崎は息(いき)を呑(の)んだ。
「何だこれは…」山崎はモニターに近寄(ちかよ)り、「オゾン層(そう)が…。そんな馬鹿(ばか)な――」
 オゾン層が虫食(むしく)いの跡(あと)のように、ところどころで薄(うす)くなっていた。山崎は呟(つぶや)いた。
「これが原因なのか…。地球の熱(ねつ)が、どんどん宇宙(うちゅう)空間に奪(うば)われているんだ」
 研究員の一人が言った。「じゃあ、氷河期(ひょうがき)が来るってことですか?」
「それですめばいいが…。下手(へた)をすると、全球凍結(ぜんきゅうとうけつ)ってこともあり得(え)る。そうなったら、人類(じんるい)は…。いや、地球上の生物(せいぶつ)のほとんどが死滅(しめつ)するかもしれない」
 研究室の空気(くうき)が張(は)りつめた。斉藤が反論(はんろん)して、「でも、温暖化(おんだんか)に向かっていたんじゃ」
 山崎はデータを食い入るように見つめ、「何が引き金だったんだ。それさえ分かれば…」
<つぶやき>地球規模(きぼ)で起こる異変(いへん)を止めることはできるのか。とっても難(むずか)しい問題(もんだい)です。
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0496「狼の逆襲」

2019-03-24 19:10:22 | ブログ短編

「まあ、ステキな場所(ばしょ)ね。こんな所があるんなら、もっと早く教えてよ」
 赤ずきんは怒(おこ)ったふりをしてみせる。猟師(りょうし)のボーイフレンドはそんな彼女を見て言った。
「君(きみ)も18だね。これは僕(ぼく)からの誕生日(たんじょうび)プレゼントだよ。この森の中で一番美しい場所さ」
「ありがとう。あなたが、こんなことをする人だとは思わなかったわ。もっと――」
 その時、森の中がざわついた。何かの気配(けはい)が、二人のまわりを取り囲(かこ)んだ。枯(か)れ枝(えだ)の折(お)れる音がピシッ、ピシッと聞こえてくる。猟師の青年(せいねん)は持っていた銃(じゅう)を構(かま)える。木立(こだ)ちの間の暗(くら)がりに、狼(おおかみ)の二つの目がいくつも見え隠(かく)れしていた。赤ずきんは身体(からだ)をこわばらせた。だが青年は何を思ったか、突然(とつぜん)、銃口(じゅうこう)を赤ずきんに向け不気味(ぶきみ)な笑(え)みを浮(う)かべた。
「やっとこの日が来た。お前はここで死(し)ぬんだ。俺(おれ)たちの森で…」
 青年は銃を下ろすと、口を大きく開けて見せて、「でも、銃なんかじゃ殺(ころ)さない。俺の口で、お前の肉(にく)を切り裂(さ)いてやる。お前は苦(くる)しみながら死んで行くんだ」
 赤ずきんは震(ふる)える声で言った。「あたしの彼をどこへやったの?」
「ああ。あの猟師なら、今頃、俺の兄弟(きょうだい)の腹(はら)の中さ」
 青年は赤ずきんを押(お)し倒(たお)し、地面(じめん)に押さえつけた。青年の姿(すがた)は、もう人間ではなかった。その獣(けもの)は、涎(よだれ)を赤ずきんの胸元(むなもと)にたらし、彼女の胸(むね)に食(く)らいつこうとした。その時、銃声(じゅうせい)が森の中に響(ひび)き渡(わた)った。獣たちは、慌(あわ)ててその場から逃(に)げ出した。
<つぶやき>彼が助けに来てくれたんだね。狼さんもこれで諦(あきら)めてくれるといいんだけど。
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0495「しずく14~崩落」

2019-03-23 18:34:08 | ブログ連載~しずく

 二人は駆(か)け出した。途中(とちゅう)、神崎(かんざき)つくねは足を止めるとアパートの方へ振(ふ)り返り、リモコンのスイッチを押(お)した。すると小さな爆発音(ばくはつおん)が何度かして、アパートが音をたてて崩(くず)れ落ちた。その音に驚(おどろ)いて、月島(つきしま)しずくが振り返って声を上げる。
「ええっ! 何で? どうしちゃったの…」
 目を丸(まる)くしているしずくに、つくねは平然(へいぜん)と言った。「大丈夫(だいじょうぶ)よ。これくらいのことで死(し)ぬような人たちじゃないから。さあ、行きましょ」
 二人は薄暗(うすぐら)い細い路地(ろじ)を歩き出した。誰(だれ)も追(お)って来る気配(けはい)はなかった。しずくは、ますます分からなくなった。つくねがどういう娘(こ)なのか…。
「ねえ、これからどうするの?」しずくは訊(き)いてみた。
 つくねはそれに答えて、「それより、靴(くつ)をはいたら? もう遅(おそ)いか、汚(よご)れちゃってる」
 靴をはいている余裕(よゆう)などなかった。おかげで、しずくの靴下(くつした)は真っ黒になっている。
「そういうあなただって、寝巻(ねまき)のままじゃない」つくねは言い返(かえ)した。
「でも、あたしはちゃんと靴をはいてるわ」
 二人は顔を見合わせると、クスクスと笑(わら)った。つくねは呟(つぶや)いて、「どっかで着替(きが)えなきゃ」
 しずくは、つくねの腕(うで)をつかむと引っぱって、「私に任(まか)せて。私の家、すぐ近くなのよ。生意気(なまいき)な弟(おとうと)がいるけど、家族(かぞく)みんな、大歓迎(だいかんげい)よ!」
 しずくは嫌(いや)がるつくねを無理矢理(むりやり)引っぱって歩き始めた。
<つぶやき>アパートを爆破(ばくは)させるなんて、一体(いったい)この娘は何者なのか? あの人たちって?
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0494「待ちぼうけ」

2019-03-22 18:37:59 | ブログ短編

 彼女は待(ま)っていた。同じように待っている娘(こ)たちが、笑顔で手を振(ふ)り恋人(こいびと)の腕(うで)に飛びつく姿(すがた)を横目(よこめ)で見ながら…。彼女は腕時計(うでどけい)を見て溜息(ためいき)をつく。約束(やくそく)の時間を十分も過ぎていた。
「何で来ないのよ。七時って約束したのに…」
 彼女は携帯(けいたい)を取り出してみたが、彼からのメールも着信(ちゃくしん)も入っていない。彼女は不安(ふあん)になった。もしかして、忘(わす)れてる? デートの日を忘れるなんて…。
 彼女は電話をかけてみた。呼び出し音が鳴(な)る。1回、2回、3回…。彼が出た。何だか賑(にぎ)やかな場所(ばしょ)のようだ。彼の声がよく聞きとれない。――どうやら、どこかの居酒屋(いざかや)のようだ。楽しげな笑(わら)い声が聞こえてきた。彼女はカチンときて言った。
「何やってるのよ。あたし、ずっと待ってるんだからね。どこにいるの?」
 彼は静(しず)かな場所へ移動(いどう)しながら、「えっ? なに? なに怒(おこ)ってんだよ。……デート?…忘れてなんかいないよ。明日だろ? 君が言ったんじゃないか。今日はダメだからって」
 彼女は突然(とつぜん)声をはりあげた。そして慌(あわ)てた感じで、「今日って、な、何日?」
 彼は呆(あき)れた声で、「あっ、また間違(まちが)えただろ? ほんと、そそっかしいんだから」
「そんなんじゃないわよ。ちょっと確(たし)かめただけでしょ。じゃあね。明日、遅(おく)れないでよ」
 彼女は電話を切ると、血相(けっそう)を変えて走り出した。
<つぶやき>スケジュール確認(かくにん)は怠(おこた)らないで。でも、何の用(よう)があったんでしょ。気になる。
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