学校法人「加計(かけ)学園」(岡山市)の獣医学部新設をめぐり、国会で前川喜平・前文部科学省事務次官の参考人招致が決まりました。焦点は、同学園の理事長と友人である安倍晋三首相の関与です。安倍首相はいまだに国会での説明を避け続けていますが、新設認定の背後に政権中枢を覆う“加計人脈”が浮かび上がっています。
元自民党衆院議員の北村直人・日本獣医師会顧問は、2007年ごろ知人の依頼で加計学園の加計孝太郎理事長と会いました。「獣医学部をつくりたい」という相談でした。
「加計氏は『政治家では安倍さんをよく知っている』と言っていた。安倍さんがバックにいると感じた」
安倍首相は米国留学中に加計氏と親交を結びました。1993年の初当選から数年間は、同学園の役員を務め、年間14万円の報酬を得ています。
14年には同学園系列の千葉科学大学(千葉県)の式典で、こんなあいさつをしました。「どんな時も心の奥でつながっている友人、私と加計さんもまさに腹心の友だ」(千葉日報)
首相夫人の昭恵氏も深い付き合いが…。昭恵氏は加計学園系列の認可外保育施設で、名誉園長に就任。同じく系列の学校法人のパンフレットに、「心より応援します」というコメントを寄せています。首相訪米時には、同法人と提携するグレートフォールズ小学校を、オバマ大統領夫人(当時)と訪問しています。
加計学園とのつながりは、安倍首相夫妻にとどまらず、閣僚や官邸にまで広がっています。しかも獣医学部新設と密接にかかわっている関係者が多くいるのです。
首相周辺にも“加計人脈”
下村元文科相・萩生田副長官・木曽元内閣参与・加戸元愛媛知事
獣医学部新設に関与
愛媛県今治市で獣医学部新設をすすめる学校法人「加計(かけ)学園」(岡山市)の加計孝太郎理事長を、「親友である」と公言する安倍晋三首相。その関係は側近たちも巻き込んでいます。
安倍首相の最側近といわれる下村博文元文部科学相。2012年12月、第2次安倍政権の誕生とともに文科相に就任しました。
当時、文科省は獣医学部新設を禁じていました。加計学園にとって、乗り越えなければならない壁でした。
パー券代
下村氏は加計氏と「特別親しくない」としています。それなのに13年、14年には同学園の秘書室長が下村氏の事務所にパーティー券代として現金100万円をもってきました。
14年10月17日には、内閣改造で文科相に留任したことを理由に会食。「誰でもいいから」と言われ下村氏は、愛媛県選出の塩崎恭久厚労相と山本順三参院議員を同行しました。
下村氏が文科相だった15年6月には、獣医学部新設の検討を閣議で決定。規制緩和の第一歩を踏み出しました。
もう一人の首相側近、萩生田光一官房副長官は、同学園系列の千葉科学大学の名誉客員教授です。09年の落選後には客員教授として報酬を受け取っていました。加計氏とは安倍首相の別荘で一緒にバーベキューを囲む仲でもあります。
萩生田氏は官邸で各府省から獣医学部新設に関する相談を受けていました。文科省の内部文書に、萩生田氏の名前が出てくるのは、昨年10月ごろ。内部文書によると萩生田氏は「官邸は絶対やると言っている」と獣医学部新設をすすめる発言をしています。
文科省あてのメールには、萩生田氏は獣医学部新設の規制緩和を認めた国家戦略特区諮問会議の原案に今治市に有利な修正を指示した、という記述があります。
首相決裁
“加計人脈”は首相側近にとどまりません。昨年8月下旬、文科省の前川喜平事務次官(当時)に獣医学部新設を早くすすめるよう求めた木曽功内閣官房参与(当時)は、千葉科学大学の学長です。
加計学園の獣医学部新設を進めてきた愛媛県の加戸守行元知事は、安倍首相が開催する「教育再生実行会議」の委員です。加戸氏は「実行会議の大きなドリルで穴をあけて」と獣医学部の新設を何度も会議で求めています。
文科省関係者は証言します。「もともと文科省の人選では加戸氏の名前はなかった。首相の意向で選ばれたと聞いている」
内閣官房教育再生実行会議担当室は、本紙の取材に「加戸氏に限らず最終的には、委員はすべて首相の決裁だ」としています。
安倍首相の周囲にこれほどまで“加計人脈”が集まり、獣医学部新設に関わっているのは偶然か―。安倍首相は参院決算委員会(3月28日)で「加計学園から私に相談があったことや圧力が働いたことは一切ない」と述べていますが…。
獣医学部新設の経緯を知る自民党関係者は指摘します。「経過をたどると第2次安倍政権成立後から、獣医学部新設が周到に準備されはじめたとしか思えない」