いまどきの家はキッチン用にいくつも電気のスイッチがある。
わたしはいつも換気扇のスイッチの横に並んでいる、コンロのところだけを照らすスイッチを押す。
先日、電球が切れてしまったが、そのことを思い出すのはいつも火を使おうとするときで、ネジで止まっているカバーを開けると鍋の中の食材にホコリが落ちるので、いつもまたあとにする、ことになる。
代わりに、廊下やリビング用の照明のスイッチと並んだ、キッチン全体を照らす電気のスイッチを押して、テレビ番組のように隅々までパッと明るくなった料理が終わる頃には、コンロの上の電球が切れていることなど、すっかり忘れてしまう。
料理に取りかかる前に思い出す、ということがようやくできた昨日、カバーを開けて、切れた電球を外し、このあとショッピングセンターへ出かけるらしい夫に渡して「これと同じものを買ってきて」と頼むことに成功した。
さて、今日、お昼に冷凍のピラフでも温めて食べようかと、久しぶりにいつもの換気扇横の、コンロのところだけ照らすスイッチを入れた。あ。
落ち着く。
この場所だけを小さく照らす灯り。
わたしここの電気が好きなの。
このコンロのところだけ照らす黄色い電気が。
こっちの、キッチン全部をジャジャン!と照らす電気じゃなくて。
独り言なのに舞台役者のように手振りをつけて言ってしまう。
「うん」
リビングのカーペットで昼寝をしている夫が寝言のようにあいづちを打つ。
小さく自分の手元だけ照らして、「いま」「ここ」の世界に没頭すると、小さな「おもしろい」がプチプチ弾けて楽しい。ふかふかした自分サイズの穴に入っていると、ふふふ、不思議な夢を思い出す。小さく自分の手元だけ照らして。
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