引き続き、組織に存続の危機やコンプライアンス上の問題をもたらす、構成員の「思考停止」について考えていきたと思います。
少し前の記事になりますが、ビジネス・ブレークスルー大学経営学部長の宇田左近氏は、経済情報サイト「東洋経済ONLINE」に掲載されたインタビュー記事(『「空気を読む」は「考えない」に繋がる愚行だ』2015.7.24)において、「思考停止」には大きく分けて以下の3つの要因があると話しています。
それは、①空気を読みすぎる、②組織の作法を重視する、③他人の言うことを鵜呑みにする…というもの。特に①(の「空気を読む」)については、島国で同質性が高く、人口密度の高い日本に特徴的なものだということです。
例えば典型的な日本企業は、国籍、性別、年齢、学歴などがきわめて似通った、同質性の強い組織であると氏は言います。こうした組織で働く人は、自身が所属する企業、団体、グループの中で、①まずは周囲人たちの立ち位置を確認し、そのうえで、②自分の職務や年次、役職に「暗黙のうちに」求められている発言をする(または「発言をしない」ことを選択する)。そして、こうした日常の何気ない経験の積み重ねによって、いつの間にかとんがったところのない常識人ばかりが醸成されていくということです。
そこで問題になるのは、こういった悪癖が「当たり前」になると、それを誰も疑問に思わなくなること。当たり前の行動が組織の中に蔓延すると、社員たちの個性は削られ、空気読みに敏感な人が醸成されていくと氏はしています。会議の場で誰も発言しない。会場にいるのが上司の発言にやたらとうなずく社員ばかりでも、「どこか変だ」とすら思えなくなるということです。
こうして企業や組織は(多かれ少なかれ)硬直化への道を進んでいく。絶対的な権力者を身に着けた経営者の下、思考停止となった社員たちが集まれば、例えコンプライアンス上の問題があっても、(社外からの派遣社員や臨時のアルバイトなどを除けば)誰も気が付かないことでしょう。
さて、ジャニーズやビッグモーター、ダイハツなど、コンプライアンス上の問題や不祥事が繰り返し発覚している昨今の日本企業の状況を踏まえ、12月26日の「弁護士JPニュース」では、アジア・ひと・しくみ研究所代表取締役で経営コンサルタントの新井健一氏が『ジャニーズ、ビッグモーター…2023年を揺るがしたアノ不祥事に共通する “根本原因”とは』と題する論考を掲載しています。
これまでの日本の企業活動において、(基本的に)営利とか人気や評判等が最も重要視されてきた。そして一方、その「背後」にあるものは、(少なくとも公式には)良くも悪くも包み隠されてきたと氏はこの論考で指摘しています。
少なくとも、それは昨日今日の話ではない。何年、何十年にもわたってタブー、アンタッチャブルとされてきた企業内のコンプライアンス上の危機。なのに、(ジャニーズにしろビッグモータ―にしろ)なぜに日本人は、自分が働く会社から逃げられなかったのか?
新井氏によれば、日本の労働者は「世界一不安で不満で不幸」と、国際的な労働機関からお墨付きが着くくらい辛そうに仕事している人種だということです。
原因として言われているのは、日本人の脳内に神経伝達物質が不足しているということ。実は、日本人7割が最も不安を感じやすい遺伝子を持っていて、「まず不安を感じる人種」だというのが氏の指摘するところです。
一方、リスクマネジメントと呼ばれる分野には、どうしても前向きでない仕事も含まれる。リスクに対して対処しなければいけないという大前提のもと、基本的にやりがいも何も感じないようなつまらない仕事も、組織の一員として(誰かが)やることになると氏は話しています。
特に日本人は、たとえモチベーションが上がらなくても、不安だから(何でも)一生懸命やってしまう。さらにいえば、本来すごく真面目なので、何も生み出さないような仕事にもそれを意思決定だと思って全力で努力してしまうということです。
かくして、日本の企業戦士は、(辛かろうが苦しかろうが、正しかろうが間違っていようが)現在の組織の態勢を身を張って全力で守り抜こうとする。上司も仲間も裏切ることのないよう会社の「秘密」を守り抜き、結果として不正や問題に加担していくことになるということでしょう。
どんなことにも一生懸命取り組む日本人。それは裏を返せば、それだけ日本人は真面目だということで、だからこそ、日本企業のリーダーはそうした社員の姿勢に報いないといけないと、新井氏はこの論考の最後に話しています。
そういうリーダーであれば、日本人の潜在力が存分に発揮されることもまた間違いない。報いる、励ます、仕事の意義をきっちり伝える。上に立つ者のそういう姿勢が(今後の企業経営には)大事となるとこの論考を結ぶ新井氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。
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