MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯321 大阪都構想がもたらすもの

2015年03月22日 | 国際・政治


 引き続き、5月に大阪市民による住民投票が予定されている「大阪都構想」について考えます。

 「都構想」を進める「大阪維新の会」のホームページでは、「都構想へのQ&A」のコーナーを新たに設け、大阪市民に向け構想の内容とメリットを以下のように説明しています。

 (1) 大阪市の24区を再編し5つの特別区を設置し、大阪府と大阪市の広域行政を統合すること、それが大阪都構想です。
 (2) 広域行政を担当してきた府知事と市長は、都知事1人に。これまでの二重行政をなくし、税金のムダ遣いを解消します。
 (3) 身近な住民サービスを担う5つの特別区に、選挙で選ばれた5人の区長が誕生します。より地域密着型の行政サービスを展開していきます。

 …さらにこのホームページでは、
 (4) 特別区では、住民に選ばれた公選区長、区議会のもと、予算編成権があり、住民の声を反映した地域にあった住民サービスを身近な区役所で実現できること、
 (5) 市民生活に必要な財源は大阪市から大阪府に移転され、今まで府・市でバラバラに使い二重行政を行ってきた不幸な過去を見直すものであること、
…などが強く主張されているところです。

 さて、橋下徹大阪市長が主導する「都構想」のこうしたメリット(の指摘)に対し、2月27日のWeb経済誌「現代ビジネス」では、京都大学大学院教授の藤井聡氏が「大阪都構想のデメリット」と題する論評を寄稿し、維新ムードの陰に隠れて見えにくい大阪都構想の基本的な問題点を指摘しています。

 「都構想」が実現すれば大阪府と大阪市の二重行政が解消され、行政が効率化されてコストが縮減できる。…こうした維新の会の説明に対して藤井氏は、残念ながら都構想が実現すると新たな「非効率」が産み出されるリスクも大きくなると、強い懸念を示しています。

 確かに都構想が実現すれば、「市」と「府」の二重行政は幾分かは解消するかもしれない。しかし一方で、大阪市という「1つの役所」の代わりに特別区という「5つの役所」ができあがり、それを通して行政コストがかえって高くなってしまう可能性があると藤井氏は考えています。
 
 この5つの区役所には、当然似たような窓口や総務部をそれぞれ作らざるを得ない。財務や税務、給与などのシステムも別々なものが必要となるうえ、場合によっては住民サービスのための施設も個別に欲しいということになる。それ以外にも、一つに統合されていれば1人でできる仕事も、5の区役所があればそれぞれに担当者を置く必要が出てくるだろうと藤井氏は言います。

 確かに、民間ビジネスの世界では、合併することで効率化を図るという手法がしばしば用いられています。また、平成の大合併など、市町村合併の考え方もまたしかり。しかし、今回の大阪市の5分割案はそうした効率化の取り組みとは「真逆」の方向を向いており、「非効率化」を引き起こす側面を確実に持っていると藤井氏は指摘しています。

 また、「水道」や「下水道」など、既に大阪市内に一体的なネットワークができあがっているインフラやシステムを、特別区ごとバラバラに運営するのはあまりにも非効率です。そのため現在、こうした種類の住民サービスについては5区が一体化した「一部事務組合」を置いて、大阪市全体で行政を行うことが検討されているということです。

 あまり知られていませんが、実は一部事務組合は立派な地方公共団体であり、個別に採用される職員(地方公務員)もいれば個別の議会も持っています。

 つまり、「都構想」というのは、正確に言えば「大阪市」というひとつの公共団体を解体して、5つの「特別区」と、それがまとまった「一部事務組合」というさらに上位の公共団体を作ることを意味している。「府」と「市」による二重行政を解消するためだったはずの都構想の実現により、現実には「大阪府」「特別区による一部事務組合」「特別区」による三重構造がもたらされることになるというのが藤井氏の認識です。

 さらに氏は、「大阪市長」という統一のリーダーが不在になり、互いに利益の異なる五人の特別区長というバラバラのリーダーが存在することになれば、当然異なる区同士の間に「利害対立」が生まれ、そこに非効率や混乱も生まれるだろうとしています。

 大阪市に代わって新たに設置される5つの特別区には、それぞれに選挙で選ばれた首長や議会が置かれます。各区は個別に様々な機関や行政委員会、審議会などを有し、区民の意向のもと独立して違う道を歩んでいくことになるでしょう。

 住民自治という視点に立てば、大阪市はその「解体」により、より住民に身近な行政を身近な自治体が行うという、地方自治の本旨に則った体制に近づくことになるでしょう。しかし、こと「行政改革」や「効率化」という観点から言えば、藤井氏の指摘するように特別区の設置はその基本からして行政の効率化にはつながり得ないものだと言えるかもしれません。

 いずれにしても、今まで「大阪市役所」という一つの組織の中で一体的に進めてきた行政サービスを、5つの組織(一部事務組合まで入れればそれ以上の組織)で行うことになるため、その手続きが「複雑化」し余分にコストがかかってしまうのはほとんど決定的だと藤井氏は見ています。

 氏は、大阪市民に対し、「都構想」の是非に一票を投じる際には、是非こうした「デメリットのリスク」についてもしっかりと吟味し考慮したうえで、総合的に判断してほしいとこの論評を結んでいます。

 読売新聞が行った昨年9月の世論調査では、大阪市民の53%が都構想に「賛成」と答える一方で、住民に対する説明については75%が「不十分だ」と回答しているということです。

 国政レベルの政局を巻き込んで、この大阪都構想に対しては政治的に異なる立場の人々からの様々な主張が展開されているようです。そうした中、2か月後に予定された住民投票の盛り上がりに向け、賛成派、反対派の双方には是非分かり易い判断材料を市民に提供していただき、様々な観点からさらに活発に議論が繰り広げられることを、私も期待して止みません。






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