MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯320 大阪都構想の論点

2015年03月20日 | 国際・政治

 
 昨年3月に施行された「大都市地域における特別区の設置に関する法律」に基づき、大阪市を5つの特別区に分割し、大阪府との間で役所機能を再編するいわゆる「大阪都構想」の協定書が、3月17日、大阪府議会議で可決されました。

 大阪市議会においては、同議案は既に13日に議決されており、法的手続きに則り政令市の存廃の是非を問う(大阪市民への)住民投票が、5月17日、制度創設後全国で初めて実施される見通しとなっています。

 投票の結果、市民の過半数が賛成の意思表示を行えば、約2年後の平成29年4月から、いわゆる「大阪都」が実現することになります。しかしこの「大阪都構想」に関して言えば、大阪府と大阪市、議会と首長との政治的な場外バトルばかりが注目され、具体的な制度の内容については今一つ市民の理解が深まっていないという指摘もあるようです。

 橋下大阪市長の肝いりで進められているこの大阪都構想に関し、今年1月27日のWeb言論誌「『新』日本経済新聞」では、京都大学大学院教授の藤井 聡 氏が、「大阪都構想 知っていてほしい7つの事実」と題し、住民投票に当たって大阪市民が理解し、考慮すべき論点をわかりやすくまとめているので、この機会に整理しておきたいと思います。

 氏が指摘する論点のひとつ目は、今回の住民投票で決まっても「大阪都」にはならないということです。

 5月の投票で問われるのはあくまで法律的に定められた「協定書」への賛否であり、大阪府と大阪市が交わす協定書に「大阪都」という言葉は一か所も出てこない。従って、住民投票でこの協定書が認められたとしても「大阪都」は実現しないということです。

 二つ目の論点は、今回の「都構想」は、分かり易くいってしまえば「大阪市を解体して(無くし、代わって)5つの特別区を置く」ものだということです。

 かつては堺市や周辺の自治体も「特別区」に加えることが構想されていましたが、一昨年この「都構想」が堺市民から事実上拒否されてしまい、構想自体が「大阪市を解体する」という内容に変質している。つまり、今度の住民投票で問われているのは「大阪市を5つの特別区に分割すること」についての賛否だと、シンプルに理解する必要があるということです。

 論点の三つ目は、都構想が実現することで、年間2200億円にのぼる大阪市民の税金(これまで市民が享受していた財源)が市外に「流出」するというものです。

 藤井氏によれば、現在の大阪市は政令指定都市として他の自治体にはない財源を擁し、強力な「都市計画=まちづくり」の権限を有する西日本の中心都市だということです。

 手厚い権限のもとこれらの豊富な財源をもって大阪市はキタやミナミ等の都市機能の強化に集中投資を行い、関西の活力の源泉に磨き上げてきた。しかし、都構想が実現してできあがる特別区からはこうした強力な権限が失われるため、大阪市内で集められた2200億円という大量の税金が大阪市「外」に流出することになるだろうと藤井氏は指摘しています。

 勿論、これらの財源の多くは大阪府に引き継がれるわけですが、それでも2200億円の予算の使い道を現大阪市民の自治で決めたり、管理したり出来なくなるということです。

 続いて四つめは、流出したこの2200億円の財源の多くが、実は大阪市「外」のために使われる可能性があるというものです。

 大阪府が、大阪市から流出する2200億円の全てを特別区内に投下してくれるなら、現大阪市民は都構想によって不利益を被ることも中心市街地が衰弱していくこともありません。しかし、都道府県の財政運営の基本に立ち返れば、これらの財源が府内の他の自治体に回されたり、財政が厳しくなった大阪府の財政補てんに利用される可能性が高いと藤井氏はしています。

 さて、論点の五つめは、特別区(現大阪市)の人口は大阪府全体の3割しかないという点です。

 東京都では全都民の約7割が23区内に居住しているため、東京都知事は当然特別区の住民の意向に特に手厚く配慮しないわけにはいきません。しかし、大阪府における現大阪市民(特別区民)の割合は全体の3割に過ぎないため、大阪府知事は、(東京都知事のように)特別区の住民の意向を重視した行政を進めていくことは不可能だという指摘です。

 藤井氏によれば、大阪府議会においても現大阪市(特別五区)選出議員数は全体の約3割に過ぎず、府議会の議論も特別区民の意向を重点的に配慮したものとはならないだろうということです。

 六つ目の論点は、東京23区の人々も「東京市」が無いせいで「損」をしているというものです。

 そもそも東京23区がもしも「東京市」だとしたら、東京都心にはさらに強烈な集中投資が進んでいただろうと藤井氏は考えています。政令市というシステムがその内側の都市行政を保護するべく機能し、現在は「東京都」に召し上げられている莫大な税金がそのまま残されているはず。つまり、23区の住民は政令市という保護システムがないせいで、アガリを多摩や島嶼その他の地域に吸い上げられているということになります。

 そして、最後の指摘は、東京の繁栄は「都」という仕組みのせいでなく、「一極集中」の賜(たまもの)だということです。

 東京23区が豊かなのに「大阪市」が疲弊している理由は、「特別区」と「政令市」との違いにあるのではなく、そもそもの経済規模が全く違うのからだと藤井氏は述べています。

 人口についても経済規模(GDP)についても、東京23区と大阪市では実に四倍前後のもの巨大な格差が存在している。その結果、大阪市は23区とは比べものにならないくらいの「少ない」自主財源しか持ち合わせていないと藤井氏は言います。そうした中、大阪市という政令市の「保護システム」を解体すれば、希少な自主財源が周辺に流出し、大阪市民はさらなる疲弊に苛まれるようになることは決定的だというのが、この問題に対する藤井氏の見解です。

 さて、藤井氏は、(大阪都構想に賛成するにせよ反対するにせよ)大阪市民はこうした論点を十分に吟味した上で判断する必要があると述べています。

 大阪人は生来新しい物好きで、直感的、現実的な欲望をなりふり構わず肯定し追及しようとする性質があると言われているようです。(←Wikipedia)

 そういう意味で言えば、法廷やメディアで鍛えられた橋下市長の弁舌とノリが、大阪人の気質に上手くシンクロしていることはよく理解できます。しかし、行政組織の枠組みの変更は単なる形式の問題にとどまらず、権限や財源、政治家や職員の身分などの要素が複雑に関連し、市民に対して様々なメリットやデメリットをもたらすことは論を待ちません。

 住民投票が決まった以上、愛する大阪の将来に禍根を残さぬよう将来に責任を持って一票を投じてほしいというのが藤井氏の思いです。

 全国から注目されている大阪都構想。氏の指摘が的を射ているかどうかは別にしても、地域をどうするかを住民自身が決めるという、日本で恐らくは初めての実験が始まります。

 賛成するのも反対するのも大阪市民の考え方一つ。そういう意味で、5月に下される大阪市民の判断を、日本の全国民が見つめているということに間違いはありません。






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