MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2397 正確な情報はタダじゃない

2023年04月17日 | 日記・エッセイ・コラム

 メディアリテラシーとは、適切なメディアにアクセスし適正な情報を選択するとともに、情報を分析、評価、創造し、行動に結びつける能力とされています。Wikipediaによれば、メディアの機能を理解するとともに、あらゆる形態のメディア・メッセージを調べ、批判的に分析評価し、創造的に自己表現し、それによって市民社会に参加し、異文化を超えて対話し行動する能力だということです。

 先般、ブルガリアのOpen Society Instituteによる2022年版の「Media Literacy Index(「メディアリテラシー指数」)」が発表され、フィンランドが100点満点中75点で47か国中1位になったほか、2位にノルウェー、3位にはデンマークが入り、北欧諸国が上位を占める結果となったと報じられています。なお、非ヨーロッパの国としては韓国とアメリカがそれぞれ17位と18位を占め、日本は23位にとどまったとされています。

 ウクライナ侵攻をめぐるロシアのフェイクニュースや米大統領選、新型コロナウイルス対策などをめぐる真偽不明の主張が社会の混乱や報道への不信を招く中、(我が国における)必要な情報を選択し正しく評価していくための取り組みは、海外に比べて遅れをとっているということでしょうか。

 一方で、この日本においても、新型コロナ関連情報から芸能人のゴシップまで、SNSなどのコメントが適切なファクトチェックがなされないままにニュースサイトやまとめサイトに掲載され、広く世の中に拡散されるケースが後を絶ちません。

 そんな折、3月1日の総合情報サイト「集英社オンライン」に、『フェイクニュースの温床になる「こたつ記事」を法政大学ゼミ生が調査』と題する記事が掲載されていたので、(#2396に)引き続きその概要を小欄に残しておきたいと思います。

 根拠が明確でないフェイクニュースの拡散が日常化し正しい情報を得るハードルが高くなると、それなりに事実がまとまっていてそれなりに有用なメディアの価値が高まっていくのは「自然の摂理」だと、法政大学教授の藤代裕之氏この記事で話しています。

 現実を見れば、(無料だからといって)真偽不明のネットニュースを読むよりも、「お金を払って新聞を読んでおくか…」となる人が多くなる近未来が予想される。5年後、10年後も現在の「PV至上主義」が蔓延したままであれば、無料のニュースは「貧者の娯楽」となるだろうというのが、この記事における藤代氏の見解です。

 現代社会において、人々は無料でニュースに触れることに慣れてしまっている。そうした中、近い将来、正しい情報を得るためにはそれなりのコストが必要となる可能性がある。お金を出せるか否か、つまり貧困層と富裕層で取得する情報までも分断される社会がやってくる(かもしれない)と氏はしています。そして、もしもそうなってしまえば、(情報によって分断された人々の間では)社会合意や政策議論ができなくなってしまう恐れがあるということです。

 ポータルサイトや検索エンジン、SNSなどのプラットフォームは、無法地帯である現状に対しきちんと整備をしていくべきだと氏はこの記事で指摘しています。「表現の自由」と密接に結びついている領域なので難しい面もあるが、ニュースについてもメディア側で自主規制を検討していく必要があるというのが氏の認識です。

 ソーシャルメディアが普及してから約20年。この間ネット上に増えたもの、それは「論評」だと氏は話しています。ツイッター上にあるのはファクト(一次情報)ではなく、各々の評論ばかり。論評がインフレすることによって、ファクトにたどり着きにくくなっているのが現在のネットメディアの姿だということです。

 コロナ禍以降、特に「コロナはただの風邪」「反ワクチン」などの自分の思想や都合に合う論だけをつまみ食いした人たちによる陰謀論がひしめいている。そんな中で、ファクトを得なければビジネスができない人は、論評を加えずに報じてくれるプレーンなメディアを求めるようになるというのが氏の見解です。

 ネット時代を迎え一時は「オワコン」の代名詞ともなった「新聞」の重要な顧客である中高年層は、10年後の今でも紙の新聞を読んでいるし、あらゆるメディアのデジタル化が進む中で、全国にニュースを届けることができる「紙の宅配」がむしろ貴重な存在になっていると氏は指摘しています。

 正確な情報が「タダ」では手に入らないこの時代。媒体云々の問題ではなく、その信用力にお金を払う消費者は必ず現れるということでしょう。そうした観点に立ち、「紙、デジタルを問わず、読者に求められている媒体の価値をきちんと提供できるか否かがメディアの生き残りに関わってくる」と予想する藤代氏の指摘を私も興味深く読んだところです。

 



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