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一定の期間に家計が得た可処分所得のうち、消費支出に回らずに手元に残った貯蓄の割合が「家計貯蓄率」というデータです。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、2020年は主要国を中心に(世界的に)貯蓄率が大きく上昇しており、日米とユーロ圏の合計では、現預金総額が1年間におよそ8兆ドル(約840兆円)増えたとされています。
これはもちろん、外出禁止などの行動制限で消費が抑制されたことに加え、世界各国が景気対策として一時給付金を実施したため。折からの米国を中心とした株高の影響もあって、(その規模感だけ見れば)かなりの「カネ余り」の状況が生まれていると言えそうです。
それでは、こうして蓄積された「富」は今、どこへ向かっているのか。世界的な家計貯蓄率の上昇とともに注目される富の流れについて11月15日の英紙Financial Timesでは、グローバル・ビジネス・コラムニストのラナ・フォルーハー氏が、「富の不動産偏在 成長阻む」と題する興味深い論考記事を寄せています。
氏によれば、住宅価格が世界的に高騰していることは今や誰もが知っているが、米マッキンゼー・グローバル研究所がこのほど発表した調査報告は、その不動産に(実際に)いかに巨額の資金が投じられているかと、その理由を明らかにしているということです。
「世界のバランスシートの大膨張」と題された同調査は、企業のバランスシートの考え方を借り、国内総生産(GDP)の世界合計の60%を占める10カ国(オーストラリア、カナダ、中国、フランス、ドイツ、日本、メキシコ、スウェーデン、英国、米国)の資産と負債を集計し、各国の富がどれくらい生産的に活用されているかを調査した。家計、政府、銀行、非金融企業が保有する実物資産と金融資産、負債を計算した結果、2020年の時点で正味資産のなんと3分の2が、家計、企業、政府が保有する不動産(土地を含む)の形で蓄えられていることが判明したということです。
その意味するところは、今の時代、デジタルばかりが注目されるが、資産は依然として実物資産が圧倒的価値を持つということだと、フォルーハー氏はこの論考に記しています。マッキンゼーの調査では、正味資産のGDP比と名目長期金利の5年移動平均との間に強い負の相関性がある(つまり、金利が下がるほど資産価格が高騰する)ことも明らかにされた。報告書の筆者らは、低金利があらゆる種類の資産の価格上昇、中でも不動産価格の上昇に決定的な役割を果たしたと見ているということです。
加えて、(当たり前ですが)土地の供給に限りがあることや、市街地規制、住宅市場の過度な規制も価格を押し上げる要因となったと氏は指摘しています。これらが重なり、2020年の10カ国の住宅価格は、平均して2000年の実に3倍に達しているということです。
一方、ここで浮き彫りになった悩ましい問題は、現在の正味資産価値のGDP比が長期平均を50%近く上回っていること。不動産を蓄えておくことが効率的な資産運用につながっている現実だと氏はしています。世界的にみれば、これまで資産価値とGDPは(一部の国では乖離はあるものの)同調的に推移してきた。ところが(こうした数字からもわかるように)今や富と成長は完全に切り離されているということです。
そしてこのことは、今日のポピュリスト(大衆迎合的)政治家らが市民の怒りをあおる好材料となっていると氏は言います。特に現在20代後半~30代前半のミレニアル世代にとって、手ごろな価格の住宅の供給は切実な願いである。しかし彼らは、これまでの世代のように人生の早い段階で家を購入できないため、家族を持てずにいるということです。
悪いことに、この状況は消費にも逆風となると氏は続けます。家を買えなければ、家に備えるべきものも買わず、その一方で、多くの人が家を買えないことが家賃の高騰に拍車をかける。こうしたことは、我々が1970年代のようなスタグフレーション(景気停滞と物価上昇の併存)に突入するのではないかという最近の懸念を裏付けているというのが氏の認識です。
こうして、「富」と「成長」が完全に切り離されてしまった大きな原因は、莫大な資金が不動産に投じられたことにあると氏は説明しています。行き場を見失った大量の資金が不動産をはじめとした有形資産に投じられ、投機が価格の上昇を招くことで経済の動きをも抑制してしまう状況にあるということでしょう。
一方、この問題を別の側面からみれば、経済的にもっと生産的な部門に十分な資金が投じられていないということでもあると氏はここで指摘しています。同じ資金が、新たな投資を求める生産活動に向けられていたらどうだったのか。インフラや設備機械、無形資産などへの投資こそが、実際には生産性の向上やイノベーションにつながることを考えれば、過小投資は深刻な問題だというのが氏の見解です。
ブロックチェーンや暗号資産(仮想通貨)、ビッグデータが今、これだけ話題になっているにもかかわらず、(結局のところ)21世紀の富が依然として人類最古の資産クラスである「不動産」という形をとっているのは驚きに他ならないと氏はこの論考の最後に綴っています。
お金は生かして使ってなんぼのもの。究極の資産である「土地」に回帰するばかりでなく、人々の発展や幸せに結び付けていく魅力ある投資先を(官民を挙げて)拓いていく必要があるのだろうと私も改めて感じるところです。
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