MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2014 「子ども庁」はどこへ行く

2021年11月12日 | 社会・経済


 岸田文雄総理大臣は10月26日にテレビの報道番組に出演し、公約であった「こども庁」の創設に向け年内に与党内で結論を出したうえで、来年の通常国会に必要な法案を提出したいという考えを示しました。

 そもそも「子ども庁」とは、自民党内からの緊急提言を受け、子どもに関する様々な課題に対し(縦割りを排し)一元的に対応するための組織として2021年の「骨太の方針」に記載されたもの。岸田新内閣では、岸田氏と総裁選を争った野田聖子氏が少子化担当大臣に任命され、岸田内閣の目玉政策の一つとして注目されています。

 少子化対策やひとり親支援、待機児童対策や虐待防止、子供の貧困やいじめ、引きこもりなど、子供をめぐる問題は大きくクローズアップされるようになって久しいものがあります。子供の健全な成長を脅かすこうした問題は、一つ一つの事象を追う限りではバラバラに見えても、実は相互に、そして複雑に絡み合っていて一筋縄ではいきません。

 「子ども庁」はそうした観点から課題を整理し、総合的な観点から政策を打ち出す役割を担っているといえるでしょう。

 もとより、組織ができればそれで問題が解決するようなものではないのは自明です。しかし、厚生労働省や文部科学省、内閣府などの縦割り組織の間で政策の連携が進んでこなかったという事実を少しでも改善できれば、厳しい現状から救える子供たちも(きっと)多いことでしょう。

 野田聖子少子化担当大臣は時事通信などのインタビューで子ども庁の体制について問われ、「一番大切なことは、どういう家庭環境でも、きちんとした教育を受けられるということを次の時代を担う日本人たる子どもたちに私たちが残すことだ」と答えています。自らが卵子提供を受けて体外受精を経験し、重度障害を持つ男児の母親として生きる(ある意味稀有な政治家である)彼女の、子供の健全な成長に向けた強い意欲と実行力に期待したいと考えるところです。

 さて、果たしてどのような組織になるのか注目されてきたこの「こども庁」に関し、11月8日の日本経済新聞が「子ども庁は内閣府外局に 政府検討、幼稚園は文科省所管」と題する気になる記事を掲載しています。

 子ども庁は、「縦割り行政の打破」を重視した菅義偉前首相が掲げた組織。各省庁に分かれる予算や人員をまとめ、子どもの成長に応じて切れ目なく支援する司令塔をめざすものだと記事はしています。その在り方については現在、内閣官房が中心となって関係省庁と調整しているとされていますが、(どうやら)内閣府の「子ども・子育て本部」と厚労省の「子ども家庭局」を新設の「子ども庁」に移管する方向で検討されているということです。

 「子ども・子育て本部」は児童手当や認定こども園、少子化対策などを担当し、「子ども家庭局」は保育、虐待防止や母子保健、ひとり親家庭への支援などを担ってきた部署。さらに内閣府からは、子どもの貧困を扱う部署も移すと記事はしています。新たに発足する「子ども庁」は内閣府の外局として設置され、消費者庁などの形態を念頭に置いたものになるということです。

 一方、(子ども庁設置に伴う)今回の組織改革においても、(結局のところ)文科省が所管する幼児教育には手がつけられず、小中学校の義務教育も移行の検討対象になっていない(ようだ)と記事は記しています。これは、子ども庁への移管について、同省の反対が非常に強いため。学校教育法は幼稚園を「学校」と位置付けており、小学校への円滑な就学などを考慮し、移管しない方が良いというのが文科省の立場だということです。

 そもそも、幼児教育の最大の課題は、鳴り物入りで始まった(幼稚園と保育所の制度を統合する)「幼保一元化」がなかなか進んで来なかったことにあったはず。その原因が文部科学省と厚生労働省との対立と縦割り行政にあったことが、今回の「子ども庁」の発想につながったことを「もはや忘れた」ということでしょうか。

 「子ども庁」に幼稚園を取り込めなければ、「幼保一元化」が見送られるばかりでなく、所管省庁を子ども庁に一本化するのも困難な状況となると記事も指摘しています。この問題は利害関係者も多く、政治的な動きの活発化も予想されることから、与党との調整で問題が再燃する可能性もあるということです。

 実際、全国の(私立)幼稚園関係団体は、政治的に与党を支えることで文部科学省や都道府県から毎年交付される多額の補助金を確固たるものにしてきました。一方の保育園についても、待機児童の解消や保育料の無償化などにより極めて大きな予算が動きます。こうした突出した規模の権限や予算事業を、両省がそう簡単に手放すはずはありません。また、政治家も、様々な利権を生み出す既得権益にメスを入れることには躊躇が伴うことでしょう。

 さて、一方で新型コロナの影響などもあり、子どもを巡る状況はさらに深刻さを増しています。積み上げてきた少子化対策にもかかわらず、2020年の出生数は84万人で統計開始以降の最少を更新しています。児童相談所が20年度に対応した児童虐待の相談件数は20万5029件にのぼり、初めて20万件を超えました。また、2019年版の国民生活基礎調査によると、子どもの貧困率(2018年)は13・5%で、ひとり親世帯は5割近くに達するということです。

 子ども庁の新設は、そうした状況を(少しでも)改善するための切り札の一つであったはず。子供たちの生活が脅かされている今を思えば、霞が関の数十メートル離れたビルとビルの間で官僚同士が細かな権限争いをしている場合ではないと考えるのですが、どのように思われるでしょうか。


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