MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯378 結婚のコスパ

2015年07月16日 | 日記・エッセイ・コラム


 今後の急激な人口構成の高齢化と人口の減少が、日本の将来を左右する大きな社会問題として様々な場面で取り上げられるようになっています。

 先の国勢調査によると、足もとの日本の人口は約1億2806万人とされていますが、国立社会保障・人口問題研究所の中位推計によれば、この数が2030年に1億1522万人に、さらに2060年には8674万人へと急激に減少していくとされ、政府を中心とした様々なセクターによって社会の変化への対策が急がれています。

 人口減少の主な原因は、1980年代以降の急激な出生率の低下にあるとされています。特に、団塊世代ジュニアと呼ばれる昭和46~49年(1971~1974)前後の第2次ベビーブーム期に生まれたボリュームゾーンの出生率(の低迷)が大きく影響しているとされ、日本の社会が少子化への舵を切るきっかけに繋がったと考えられています。

 出生率に関して言えば、結婚したカップルが実際に産んだ子供の数(完結出生児数)がここ40年間ほど概ね2.2~1.9で推移していることからも判るように、一旦結婚したカップルは現在でも概ね2人の子供を安定して設けていることが判ります。このため、出生率低下の最大の原因は昨今の若者の「非婚化」にあるのではないかというのが、既に専門家の間の通説になっているようです。

 実際、データ上からも、この30年で男女ともに生涯未婚率(50歳時点で一度も結婚したことのない人の割合)が著しく上昇していることが見てとれます。厚生労働省の資料によると、1985年に男性の未婚率は3.9%、女性は4.3%だったのに対し、2010年にはそれがそれぞれ20.1%、10.6%へと急増しています。さらに、この傾向は今後も続くと予想されており、2030年には男性が27.6%、女性が18.8%にまで高まるとの推計もされています。

 そうした中、内閣府が今年6月に発表した「結婚・家族形成に関する意識調査」の結果が、様々なメディアで大きく話題を呼びました。

 この調査は、内閣府が昨年12月から今年1月にかけて20~39歳の男女7000人を対象に行い、2643人から回答が寄せられたものです。このうち、未婚で恋人がいない761人に対し「恋人が欲しいか」との質問を行ったところ、概ね4割(37.6%)が「恋人は欲しくない」と答え、その理由(複数回答)として「恋愛が面倒」(46.2%)、「自分の趣味に力を入れたい」(45.1%)などを挙げたということです。

 年代別でみると、男女とも30代よりも20代の若い層ほど「恋人が欲しくない」とする率が高く、20代の男性で39.7%、女性では41.1%に上っています。さらに収入別で見てみると、男女とも「収入がない」層では約半数が「恋人は欲しくない」と答える一方で、収入が高くなるほど「恋人が欲しい」とする率が高まり、男性は年収400万円以上で79.7%、女性は200万円以上で70.7%が「恋人が欲しい」と回答しているということです。

 データは、恋愛や結婚に対して概して積極的になれない現在の若者の姿を映し出しています。

 そうした環境もあってか、5月7日の毎日新聞に「〈一極社会〉結婚『コスパ悪い』 『恋愛の価値』低下」という記事が掲載されると、ネット上などに賛否両論が寄せられかなりの反響を呼びました。

 記事では、「都内在住の26歳公務員」(給料は手取りで月40万円弱、家賃約8万円、食費約3万円、貯金200万円)という男性の、「結婚にはメリットがない」「コスパが悪い」という声を紹介しています。広告代理店アサツーディ・ケイの若者プロジェクトリーダー・藤本耕平氏はこうした若者の考え方について、個性重視という教育を受けてきた若者にとって「結婚がいちばん正しい」という価値観は、とりわけ多様なライフスタイルが可能な東京において崩れてきていると分析しています。

 結婚で必ずしも安定した将来が得られるとは思えない。他人と暮らすことで精神的に消耗する。収入を自分の好きなように使えない。子供ができたら教育費にお金がかかる。親戚などわずらわしい人間関係が増える…こうしたイメージのもと、結婚をできるかぎり後回しにしたいという独身男女の気持ちは判らないではありません。

 それでは一方で、結婚のメリットとは何なのでしょうか。さらに言えば、結婚とはそれほどコストパフォーマンスが悪いものなのでしょうか。

 記事において(前出の公務員男性)は、便利な都内に住み続け趣味や娯楽を楽しむためのコストと「結婚」や「婚活」のコストとを比較して、結婚のコスト(ハードル)は相対的に高いと位置づけているようです。一方、結婚で得られるパフォーマンスとしては、きれいな人と一緒に暮らせること、安心ができること、身の回りの世話をしてもらえることなどを挙げています。

 しかし、彼が「コスト」として認識している結婚観は、あくまで「収入」であったり「家賃」であったり、「家事」であったり「子育て」であったり、いずれにしても男性目線で「奥さん」を養っていくことを前提としたものばかりで、共同生活というものへの(そしてパートナーの存在への)想像力に余りにも欠けていると言わざるを得えません。

 例えば、コストの面で言えば、結婚すれば収入は2倍になっても家賃は2倍にはならないでしょうし、食事を作る回数も2回に1回で済むことになります。外食が減れば食事代も浮くし、家で食べれば1人前も2人前もあまり材料費は変わりません。掃除、選択などの家事に費やす時間も半分に減るわけですし、いいことばかりのような気もします。

 一方、君の物は僕の物、僕の物は君の物で、冷蔵庫のビールはどちらが飲んでもいいわけですし、テレビもエアコンンもハサミも歯磨き粉も、二人で使えばひとつで済むというものです。

 また、パフォーマンスをリスクヘッジの観点から見れば、結婚はさらにメリットばかりをもたらします。病気になった時には看病してもらえるかもしれないし、救急車だって呼んでもらえる。万が一失業しても、二人で頑張れば暮らしていくくらいは何とかなるでしょう。

 さらに言えば、子供が生まれれば二人で(一人よりもずっと楽に)育てられますし、子育ても二人で楽しめます。家族で行く旅行は楽しいし、ひとりで出かけたい時は相手を説得すればいいだけのことです。

 結婚がカップルに多くのパフォーマンスをもたらすことは事実であり、それが上手く機能するかどうかは「制度」自体の問題ではなく、当人たちの心掛け次第ということかもしれません。結局のところ、結婚に踏み切れるか踏み切れないかは、人と深くかかわること、人と譲歩し調整することをどれだけのコストと捉えるかという、その一点に尽きるのではないかと思うところです。

 結婚とは、それぞれ別の人格を持った男女が人生を共有していくことであり、「養ったり」「養われたり」する関係を基調とするものでは勿論ありません。

 人と人とがと対等の関係の中で繋がって生きるのは、実際のところかなり「面倒くさい」ものかもしれません。しかし、人と人との繋がりが人生を充実させ、その過程で生じるリスクをヘッジしていく最も大きな要素だということを思えば、結婚のコスパは決して悪くないと思うのですが、さてさていかがでしょうか。




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