MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯379 有権者教育を考える

2015年07月17日 | 社会・経済


 高校生を含む18歳以上の未成年に選挙権を付与する与える改正公職選挙法が6月17日に成立したことを受け、18歳、19歳が初めて投票することとなる来年夏の参議院議員選挙に向けて、秋以降、関係各部門の準備が本格化していくことになります。

 おおよそ70年ぶりとなる今回の選挙制度の改正を投票率向上につなげるため、政府は若者が有権者としての自覚を持てるよう、10代への「主権者教育」を充実させる考えを示しています。菅義偉官房長官は6月17日の定例記者会見において、「高校生や大学生を中心に、周知、啓発に取り組むことが大事だ。各選挙管理委員会や学校現場で主権者教育を一層推進してもらいたい」と強調したということです。

 こうした官邸の意向を受け、文部科学省と総務省は連携して特に高校における主権者教育の徹底を図るため、政治と選挙の重要性を解説した副教材を年内にも作成し全高校生に配布したり、模擬投票を実施したりするなどの取り組みを開始するとしています。

 若者の政治離れが深刻化する中、どうすれば新有権者達に投票所へ足を運んでもらうことができるのか。6月23日の「ニューズウィーク日本版」では、米国在住の作家で翻訳家の冷泉彰彦氏が、「18歳への有権者教育とは何か?」と題する興味深い論評を行っています。

 冷泉氏はこの論評において、若者に政治に興味を持たせ自らの権利を進んで行使するように導く効果的なプログラムについて、このように提案しています。

 まず18歳から19歳、そしてすぐに選挙権を手にすることになる16歳や17歳の若者に、一番当事者意識の持てる課題に絞って徹底した政策論争を体験してもらう。例えば、選挙権に加えて「民事上の成年扱い」を18歳に引き下げるべきかどうか、また、「少年法」の対象を18歳未満までとする必要があるのかどうかといった、ある意味喫緊の課題について考えてもらおうというものです。

 16歳から19歳の若者は正にこうした問題の「当事者」であり、人任せにはしておけない選択であるはずだと冷泉氏は言います。果たして自分たちは権利を欲しているのか、その代わりとしての責任と義務を負う用意があるのか、自分たちの問題として思い切り議論してもらおうというものです。

  さらには、大学受験制度や奨学金の問題、そして卒業後の雇用の問題など、若者が当事者として政治参加するに当たっての「切迫した問題」は、その他にも数多くあると冷泉氏は指摘しています。

 中でも最も重要なのは、膨大な政府債務を抱える中での年金や社会保障の問題かもしれません。

 これから一層進展する超高齢社会において、いわゆる「支える側」となることが宿命づけられている現在の10代にとって、この問題は自らの未来に最も大きな影響を与える政治的課題と言えるでしょう。そして、前の世代がこれを先送りにしている以上、この問題は彼等にとって、自分たち自身で解決していかなければならない厳しい問題だと言えるかもしれません。

 そこで思いついたのですが、この機会に中学校や高等学校の「生徒会」の持つ権限を一定程度拡大し、「自分たちのことは自分たちで議論し決める」という基本的な意識や姿勢を身に着けさせていくことなども、これから先を考えれば効果的な手法かもしれません。

 既存の仕組みというものは、それ自体絶対的なものも何でもない。必要があれば自分たちで考え、議論し、変えていくことができる。教育の現場でそのような成功体験を経ることで、諦めをもって政治を見つめる若者の意識を活性化させていくことが可能になるかもしれません。

 それはそうとして、いずれにしても少なくとも若者をバカにしたようなイラスト入りの「官製パンフレット」を作ったり、17歳以下の選挙運動を取り締まったりすることが「有権者教育」に成りえるはずはないと、冷泉氏は(ある意味ひややかに)この論評をまとめています。

 政治を身近なものとして意識していない高校生に対し、上から目線で「選挙は国民にとっての大切な権利だ」とあるべき論で100篇言っても、それはなかなか彼らに通じるものではないでしょう。

 有権者意識というのは、実際の議論に参加する中から育まれるものだとするこの論評における冷泉氏の見解を、特に教育の現場や政治を担う大人たちは、改めて重く受け止める必要があるかもしれません。



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