MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2336 東京都の子育て給付金(その2)

2023年01月11日 | 社会・経済

 少子化対策として小池百合子東京都知事が打ち出した18歳以下に月5000円程度を給付する案について、同知事は1月6日の記者会見で「夫婦で一生懸命働いて、税金も納めて給付の対象にはならないと、あたかも何か罰を受けているようだ」として、所得制限をしない考えを強調したと伝えられています。

 とはいえ、働いて一定の所得があれば「納税」するのは国民の義務であり、それを効率的に使って政策目的を達成させるのが政治の仕事のはず。納税者の顔色ばかりを窺っていては、責任ある行政とは言えません。

 選挙を控えた政治家の事情は分からないではありませんが、税金が政治家個人のものではないのは自明です。小池知事ならではの(有権者の視線を意識した)あからさまな動きに、やはり人というのは変わらないものだなと改めて感じたところです。

 そんな折、1月5日の総合ニュースサイト「Yahoo news」に日本若者協議会代表理事の室橋祐貴氏が「「東京都子ども給付金」有権者ウケよりも公教育の質的改善が急務」と題する論考を寄せていたので、参考までにその要旨を紹介しておきたいと思います。

 1月4日に東京都の小池百合子知事が明らかにした、都内に住む0歳から18歳の子ども全員への月5,000円の給付事業。サプライズ好きな小池都知事らしく、都庁職員への新年の挨拶の中で突然打ち出したのは、子ども予算倍増の財源を明確にしていない岸田政権との対比構造にしたいという狙いもあるのだろうと室橋氏はこの論考に綴っています。

 狙いは的中。メディアは大きく反応し、都内の子育て世代からは歓迎の声が上がっている。しかし、本当に妥当なのか(有権者としては)その内容を冷静に見極める必要があるというのがこの論考における氏の認識です。

 月5,000円の給付額は、家計における子ども1人あたりの教育費の全国平均(約7,000円)と東京の平均(約1万2,000円)との差額から算出したとのこと。都内の0〜18歳人口は約200万人で、月5,000円を給付すると、それだけで年間約1200億円の財源が必要となると氏はしています。

 東京都の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子どもの推計人数)は、2021年1.08で、全国平均1.3を下回っている。その観点から言えば、東京都が少子化対策に注力することはもちろん望ましいが、税金を使う以上、年間6万円で少子化対策につながるのか、新たに子どもを産もうとする家庭がどのくらい増えるのか、そしてもっと他に効果的な施策はないのかを見極める必要があるということです。

 少子化の大きな要因の一つは、教育費の増加にある。年々大学の授業料は上がり、小学校段階での教育費用も増加していると氏は言います。学習塾やスポーツ、文化活動など、学校外での費用の平均額は、公立の小学校では24万7582円、公立の中学校では36万8780円。つまり、学習費用の多くは、学校外での費用となっている(もしくは私立の選択)ということです。

 根底にあるのは、教育の競争環境の激化、公教育の質的低下(時代の変化や私立と比例して)であり、結果的に、塾に通う、私立に通うなど、家庭の教育費がかかる方向に進んでいる。このまま公教育の質が上がらなければ、その費用が増加し続けることは間違いないというのが(現状に対する)氏の見解です。

 そこで、(教育費の負担が上がっているからと言って)給付金を出せば、富裕層はさらに学校外に費やし、貧困家庭は生活費に消え教育格差は拡大していく一方となる。となれば、近年たびたび話題に上がる教員の多忙化、教員不足、教員志望の学生減少など、教育現場が抱える課題に予算を割いた方が、間違いなく公教育の質は上がるというのが(この論考で)氏の指摘するところです。

 今回の給付は、年間約1200億円かかる見込みだが、東京都の令和4年度の教育予算は、全部で8,764億円、小中学校と高校の運営に限って見れば、それぞれ4,701億3,100万円、1,437億5,100万となっている。つまり、年間約1200億円を使えば、高校の運営にかかる予算をほぼ倍増することが可能となるというのが氏の計算です。

 東京都の小中学校教員数は約5万人。諸々含め年収1000万円と単純計算しても、1200億円の財源があれば、1万2000人、今より20%以上教員の数を増やすことも可能だということです。

 政治家は、有権者ウケを狙って、給付など家計を直接支援する政策に走りがちとなる。それは、質的な改善よりも、量的な改善の方がわかりやすく、有権者にPRしやすいからだと氏は言います。

 2024年には都知事選挙が予定されている。穿った見方をすれば、今回の措置はそのための実績作りとも言える。その際、今回対象となる約200万人の子どもを持つ家庭は好意的になるだろう。しかし、そうした目先の施策ばかりを続けてきた結果、少子化が一向に改善していない現実を、有権者はもっと直視すべきだということです。

 コロナや物価高騰への(政府の)経済対策などもそうですが、何千億円、何兆円と積み上げられた数字に騙されてはいないか。貴重な財源は、本当に活かされているのか。有権者は、自分たちの税金の使い道として本当に正しいかどうか、冷静に見極める目をもっと持つべきではないかとこの論考を結ぶ室橋氏の指摘を、私も重く受け止めたところです。



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