MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2563 子育て支援では子供は生まれない

2024年03月27日 | 社会・経済

 「異次元の少子化対策」と称し、政府は現在、児童手当の増額や育児休業給付の拡充、親の就労にかかわらず保育園を利用できる「こども誰でも通園制度」の創設などの子育て支援策を進めています。

 一方、その財源約1兆円については、公的医療保険料に上乗せする形で広く(現役の)国民から集めるとしており、給料袋から抜かれる社会保険料がさらに高くなることを半分諦めの思いで聞いているサラリーマンも多いかもしれません。

 政府は「たった数百円」とか「実質負担なし」とか言っているようですが、知らぬ間に天引きされる身としては話はそう簡単ではありません。

 それも、確実に子供の数が増えるのであればよいのですが、児童手当を増やすことが、本当に「子どもを産むかどうか」「結婚しようかどうか」と悩んでいる人を後押しするようなきっかけになるかどうか。現在子どもを育てている人たちにお金を配れば、それだけで子供を(ばんばん)作る気になるというものでもないでしょう。

 果たして、現在のような子育て支援策を進めるだけで、日本の少子化は「異次元」のV字回復を成し遂げることができるのか。こんな疑問に対し、2月20日のYahoo newsに自ら独身研究家を標榜するコラムニストの荒川和久氏が『子育て支援では子どもは生まれなくなった大きな潮目の変化』と題する論考を寄せているので、その一部を小サイトに残しておきたいと思います。

 決して「子育て支援」を否定したい訳ではないが、これを充実させても新たな出生増にはつながらない。今回の1,2兆円規模の政府支出によって「出生率が約0.1引き上げられる」などという試算を出している御用学者もいるようだが、そんな(バレバレの)嘘をつけるメンタリティには頭が下がると氏はこの論考に綴っています。

 実際、2007年の少子化担当大臣創設以降、日本の家族関係政府支出のGDP比は右肩上がりに増えているが、予算を増やしているにもかかわらず出生数は逆に激減し続けているとのこと。氏によれば、2007年と2019年を対比すれば、この政府支出GDP比は1.5倍に増えたのに、出生数は21%も減少しているということです。

 家族関係政府支出を増やしても出生数には寄与しないことは、お隣の韓国の例でも証明されている。そうすると、「見習うべきは子育て支援が充実している北欧である」という声が出てくるわけだが、実はその一角にあるフィンランドの出生率ですら激減している状況にあると、氏はここで指摘しています。

 フィンランドの合計特殊出生率が、2023年の速報統計で1.26になったという発表があった。これは、過去最低と大騒ぎになった日本の2022年の出生率とほぼ同等のレベルであり、さらにその前の2018-19年にかけてのフィンランドの出生率は、2年続けて日本より低かったということです。

 フィンランドには、子どもの成長・発達の支援および家族の心身の健康サポートを行う「ネウボラ」という制度があることで知られている。保育園にも待機することなく無償で通え、児童手当および就学前教育等が提供される「幼児教育とケア(ECEC)」制度が展開されるなど、世界的にも子育て支援は充実していると氏は話しています。

 一方、そうした世界最高レベルの子育て支援が用意されていたとしても、それだけでは出生数の増加には繋がっていない。むしろ、出生数の減少に拍車がかかっているのが現実だということです。

 氏によれば、最近の研究の結果では、フィンランドでこれだけ出生率が急降下しているのは、特に20代女性の出生数が激減しているからとのこと。実際、(フィンランド統計により)2010年と2022年の各年代の出生数を比較すると、20-24歳で58%減、25-29歳で43%減と極めて大きな減少を見せているということです。

 フィンランドで20代の出生が減っていることが、国全体の出生率を下げていることは(まず)間違いない。20代の出生減とは、言い換えれば20代で第一子が生まれてこないということ。第一子が産まれなければ第二子も第三子もなく、若いうちに出産をしないまま過ごすと、(出産が後ろ倒しになるのではなく)「もう子どもを産まなくてもいい」と結果的に無子化になると氏はしています。

 日本の女性の生涯無子率は世界一の27%だが、フィンランドでもついに20%を超えた。この20代出生数の減少は日本も韓国も台湾もまったく一緒で、逆にいえば、下がっているとはいえかろうじて出生率そこまで激減させていないフランスは、20代の出生数がまだまだ多いからだというのが荒川氏の見解です。

 さて、日本の出生があがらないのは「ジェンダーギャップ指数が125位だから」「男性の育休が進まないから」などという声も聴くが、ジェンダーギャップ指数でいえばフィンランドは2023年調査で堂々の世界第3位。男性の家事育児参加や育休取得レベルも日本との比較で出されるくらい多いと氏は話しています。

 ジェンダー平等にしろ、男性の育休にしろ、子育て支援の充実にしろ、それ単体としては進めればよいと思うが、それらを改善すれば出生率があがるなどという因果関係はどこにもない。むしろ、それらを一緒くたにまとめて因果推論をすることこそが、問題の本質をわかりにくくしているというのが氏の指摘するところです。

 (こうして)どこにも通用する普遍的な「少子化解決の魔法の処方箋」などあるわけないのだが、一方で、今起きている現象には先進諸国共通のものがあると氏はこの論考の最後に綴っています。

 ひとつは、2000年代までは通用した家族支援は既に効果を生まなくなっていること。そしてもうひとつは、子どもがコスト化し、裕福でなければ(そもそも)「そうしよう」という意欲すら持てなくなっているということだというのが氏の見解です。

 家庭を持ちたい、子どもを残したい…という気持ちは、(先進国に暮らす若い世代にとって)もはや自明のことではないということでしょうか。そうした自覚の下、そろそろこの問題に(正面から)向き合わなければならないと話す荒川氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。



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