MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2458 中国のプライドはどこへ向かうのか?

2023年08月29日 | 国際・政治

 今年の4月、中国の上海で行われたモーターショーでおこった(別名)「アイス事件」。SNS を通じてドイツ・BMW への批判が高まったことで、中国におけるBMW社製の自動車の売れ行きが激減するという事態を招くに至りました。

 事の発端は、どこにでもあるようなほんの些細なでき事です。中国人女性2人がBMWミニのブース前に設置された案内デスクで「アイスクリームがもらえるのか」と尋ねたところ、職員は「ない」と答えたとのこと。ところが、その後別の外国人男性が近づいてアイスクリームを求めると、同じ職員が冷凍ボックスを開けてアイスクリームを手渡したというものです。

 この状況が別の中国人観覧客によって撮影されており、映像が中国のSNS上に投稿されると爆発的な反応(大炎上)が巻き起こったということです。

 書き込まれたコメントは、「中国人をバカにしているのか、こんな会社は明日にでもつぶれてしまえ」「BMWのファンだったことが恥ずかしい、ひざをついて謝れ」などという感情的なものを中心に10万件余り。さらに、上海市内では、販売店に展示されているBMW車にアイスが投げつけられたり、駐車場に置かれていたBMW車が破壊されたりと、その影響は日に日に拡大していきました。

 あまりの激しさに、BMWミニ側は「内部管理を改善し、職員の教育を強化する。すべての方に心よりお詫びする」との公式謝罪文を発表しましたが、「欧米に肩を並べた」との自信を深める中国の人々のプライドが癒されるには、その後3カ月以上の月日を要するに至ったようです。

 また、最近の中国ではこの「アイスクリーム事件」以降、ネットインフルエンサーがSNSのPVを稼ぐため、(たとえば欧米のホテルで差別待遇を受けたとか、中国人旅行者が日本の警察官に不当に職質されたとか…)国民の愛国心を(意図的に)利用する事案なども増えているとされています。

 その背景には、経済的な発展を遂げた中国の人々の自信の表れや、逆に欧米へのコンプレックス(の裏返し)などもあるのでしょうが、中国当局も言下にこうした炎上を支えている(少なくとも鎮静化への動きを見せていない)所を見ると、政府として国民のナショナリズムの高まりを煽っているように見えるのは否めません。

 7月5日、中国共産党の外交責任者の王毅氏が、日中韓三国の交流行事で「私たちが頭を黄色に染めて鼻筋を通して高くしたところで西洋人になれない」と、米国にすり寄る日韓を揶揄したことが話題になりました。こうしたことからも権威主義的色彩を強める習近平政権の下、中国がアジアの覇権国家として(周辺国に対しても)これまでとは違った態度に出ていることは紛れもない事実のようです。

 日本経済新聞社コメンテータの西村博之氏は、7月20日の同紙コラム「Deep Insight」において(新興国と覇権国との対立を示す)「トゥキディデスの罠」に触れ、中国が発信する強い言葉の背景には、確実な自信の高まりがあると指摘しています。

 共産党系の英字紙グローバル・タイムズのアンケート調査によれば、中国で米国と西側諸国を「見下す」若者の割合は55%と過半を超えるとのこと。一方、「対等」は39%で「憧れる」に至っては4%弱に過ぎないと西村氏はこのコラムに綴っています。

 そうした中、時速350キロで滑走する高速鉄道、舗装された高速道路や広がる地下鉄網など…そんな光景を前に勝ち誇る中国の人々には、外国人が抱く違和感には思いも至らないだろうと氏は言います。

 あまりに直線的な鉄道、人工的な道路沿いの景色に「外の目」は強権の影を見る。地下鉄改札での荷物検査もしかり。街角に並ぶ監視カメラや警察官の強権的な感覚なども、欧米的な自由に慣れた我々には違和感としか映らないということです。

 現在の中国は自らの求心力を過大に、遠心力を過小に評価している。その姿勢は、巨大市場の磁力と腕力で技術や供給網をたぐり寄せられるとの過信にも通じると氏は話しています。

 北京の昔ながらの街並みが残る胡同地区。お年寄りが裸で夕涼みする裏通りは古き良き中国を感じさせるが、その路地の隅々まで監視カメラが光っている。そしてすぐ隣に停められている、場違いなほどの欧米高級車の数々。この光景から判るのは繁栄と強権は表裏だということであり、豊かさを体現した党と国家の介入を中国の人々は受け入れているというのが氏の見解です。

 だが2桁成長の時代は終わり、現在の中国経済は減速が目立つと氏は続けます。国民の不満が高まれば、矛先を外に向けるのは統治者の常というもの。折しも米国は大統領選を来年に控える。まさに、(覇権を競う)米中両国の胆力が試される局面だということです。

 さて、中国の若者たちは、何を根拠にそれほどまでに自信を深め、欧米に対しなぜそんなに高飛車に出るのかと考えていたところですが、やはり狭く限られた言論環境にその原因があるような気がしてなりません。

 中国国民の自信を否定するものではありませんが、自国第一主義でコントロールされることに慣れ切った彼の国の人々(特に若者たち)には、ぜひ外国に出てみることを勧めたいと改めて感じたところです。

 



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