MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2457 「子ども未来戦略」に物申す

2023年08月27日 | 社会・経済

 6月13日、岸田文雄内閣は少子化対策の強化に向け、児童手当や育児休業給付の拡充などの具体策を盛り込んだ「こども未来戦略方針」を閣議決定しました。今後3年間、年間3兆円台半ばの予算を確保し、「加速化プラン」として集中的に少子化対策に取り組むとしています。

 方針は、少子化対策の課題として①若い世代が結婚やこどもを生み育てることへの希望を持ちながらも所得や雇用への不安などから将来展望を描けないこと、②子育てしづらい社会環境や子育てと両立しにくい職場環境があること、③子育ての経済的・精神的負担感や子育て世帯の不公平感が存在すること…などを挙げています。

 このため、①若い世代の所得を増やし、②社会全体の構造・意識を変え、③育児負担が女性に集中している実態を見直すことをその目標として示しているところです。

 一方、加速化プランはその具体的な内容として、

▼児童手当はの所得制限の撤廃と高校生までの対象拡大

▼出産費用の保険適用を含めた支援のさらなる強化

▼授業料の減免や給付型の奨学金の対象拡大

▼親が就労していなくても、子どもを保育所などに預けられる制度の本格導入

▼育休期間の給付金の給付率の引き上げ

などを掲げています。

 財源は、社会保障費の歳出改革に加え、社会保険の仕組みを活用して、社会全体で負担する新たな「支援金制度」の創設などで2028年度までに確保するとし、一時的な不足分は「こども特例公債」を発行して賄うということです。

 さて、子育て支援など無きに等しかった世代から見れば、(一見)至れり尽くせりに見えるこの方針ですが、政権を挙げての「子ども未来戦略」と銘打つにしては、いささか斬新さに欠けるというか、既存の給付金の積み増しをホチキスで止めただけ…の観もなきにもあらずといったところ。そもそも「少子化対策」というからには、子育ての負担軽減だけではなく、若い世代が積極的に「結婚したい」「家族を作りたい」と思えるようなものであってほしいと考えるのは私だけではないでしょう。

 (大変なのはわかっているのであまり厳しいことを言うつもりはありませんが)子育て予算を倍増すれば子供がホイホイと生まれるわけもないし、一方で「万策尽きた」というほどの策を検討した気配も感じられません。

 そんな折、7月19日の日本経済新聞の経済コラム「大機小機」に、「こども未来戦略に異議あり」と題する一文が掲載されているのを見かけたので、参考までに小欄のその一部を残しておきたいと思います。

 政府が6月に閣議決定した「こども未来戦略方針」。その冒頭には「急速な少子化・人口減少に歯止めをかけなければ、世界第3位の経済大国という、我が国の立ち位置にも大きな影響を及ぼす。人口減少が続けば、労働生産性が上昇しても、国全体の経済規模の拡大は難しくなるからである」(一部略)とある。

 少子化対策に賭ける政府の意気込みを語った部分だが、経済学の基本に照らしてみると、この文章にはいくつかの誤りがあると、コラムはその冒頭に綴っています。

 第1は、経済規模を重視している点。国民の福祉にとって重要なのは、国内総生産(GDP)の規模ではなく1人当たりGDP。経済規模のグロスにこだわるのは誤りだと筆者はしています。

 例えば、インドの人口は日本の10倍だからいずれインドが経済規模で日本を上回る。しかし、第3位の経済大国になったからといってインド国民が幸せになるわけではないし、4位になったからといって日本の国民が不幸せになるわけでもないというのが筆者の認識です。

 第2に、人口が減ると、労働生産性が上昇しても経済規模の拡大が難しくなるという指摘。これは「人口減少が続けば、労働生産性が上昇しても経済はマイナス成長になる」と読み替えられると筆者は言います。

 しかし、現実を持てほしい。日本は2008年ごろから人口が減っているのに、マイナス成長になったのはリーマン・ショックやコロナの影響を受けた時だけのこと。成長に重要なのは、人口の増減でなく生産性だというのが筆者の見解です。

 そして第3に、政策目標の不明確さについて。「少子化・人口減少に歯止めをかける」と言っているが、その「歯止めをかける」とは何かが分からないと筆者は言います。

 「出生率を反転させる」ことなのかもしれないが、現状の出生率は相当低いので、目標としてはハードルが低すぎる。また、もしも人口減少をストップさせるということだとしたら、(出生率を置換水準の2.07にまで戻さなくてはならないので)、これはあまりにもハードルが高い(というよりも「実現不可能」)というのが筆者の指摘するところです。

 政府は6月に決定した「骨太方針」で、EBPM(証拠に基づく政策立案)を推進するとしているが、政策目標が不明確なまま大規模な予算措置を講じるのは、入り口の段階でEBPMを無視しているようなものだと筆者はこのコラムに記しています。

 大言壮語で夢を語っても、(「やってる感」だけでは)現実社会は変わらない。次の時代を堅実に予想しながら、一つ一つ手を打っていく必要があるということでしょうか。

 (こうあったらいいな…という)役人の作文では未来は変わらない。こども未来戦略は、経済学の基本を踏まえて見直した方がよさそうだと話す筆者の指摘を、私も興味深く読んだところです。



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