MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯42 名前があるということ

2013年07月29日 | うんちく・小ネタ

 イルカには人間と同じように名前があって、海中ではお互いに名前を呼び合って暮らしているらしいという研究結果が発表されています。

 イギリスのセント・アンドリュース大学の研究チームによれば、イルカにはお互いを識別するため個体ごとの特有の口笛の音を持っていて、これが「名前」と同じ役割を果たしているとのこと。イルカは家族や仲間に呼ばれるとその音をまねして反応し、日常的に仲間達と意思の疎通を図っているのだそうです。また、この音は20km離れた地点でも検知できるということですから、海の中ではきっといろいろな呼びかけの声があちらこちらから響いているのでしょうね。

 このように、同種の個体を、「この声は誰それさん」と個別に認識できるのは人間の他はイルカだけだということです。これはよく考えると大変なことなのかもしれません。養鶏場でケージに入った一万羽の鶏を見ても、「ニワトリがたくさんいる…」と思うだけで個別のニワトリに特別な思いは浮かびません。名前がなければ、その個体と自分とのつながりというものが具体的に発生しないと言ってもいいでしょう。

 その一万羽の中に、例えばひよこの頃から育てた黒いニワトリの「ピーちゃん」を見つけられれば、ピーちゃんは他のニワトリとは全然違う「固有名詞」の付いた自分にとってかけがえのない存在となります。名前が付くということは、ほかの個体とは異なる特別な個体として認識するということであり、個体に対する愛情が芽生えるということです。

 犬の群れや猿の群れでも、親子やボスや上下関係など、共同生活を営む上で必要な相互の関係性は恐らく理解できているのだと思います。しかし、それぞれに名前が付くということは、もっとパーソナルな意味での関係性が明確になるということです。それぞれに個性が生まれるということであり、特別な存在になるということだと思います。○○さんは餌を探すのが上手。あのとき餌を分けてもらった、助けてもらった。○○さんは××さんの娘で△△さんと仲がいい。同種の個体が集まってひとつのまとまった社会を構成していくためには、名前の下にこうした付帯情報をぶら下げていくことがどうしても必要です。

 さらに、名前が付くことの最も大きな効果は、「自分」を意識し「他者」を意識することが可能になることではないでしょうか。相手から声を掛けられて「自分を呼んでいるな」と理解できること。名前が付くことで初めて「自分」が何者なのかを客観的に意識することになるでしょう。また、群れの個体をA君、B君と認識することによって、群れを社会として認識することができ、個体の関係性として理解することができようというものです。

 コミュニケーションというのは、「わたし」と「あなた」。そこに「第3者」が加わることによって情報の幅は飛躍的に広がります。感情の幅も大きく広がることでしょう。

 名前が付くというのは特別な存在になるということであり、名前を呼ぶということことは相手のことを「想う」ということです。イルカと一緒に泳ぐとヒーリングの効果があると言われますが、この話を聞いて「なるほどな」と思いました。



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