MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

 伊皿子坂社会経済研究所のスクラップファイルサイトにようこそ。

#2417 超大国ロシアの今

2023年05月31日 | 国際・政治

 昨年の2月24日から始まったロシア軍によるウクライナ侵攻は、1年以上経った現在も激しい戦闘が続き、(欧米諸国の支援もあって)一進一退の状況と報じられています。

 何と言っても、東西冷戦時代に培われた「世界第2位の軍事大国」というイメージが強かったロシアのこと。侵攻時点では、国境を越えた大量の戦車群によってウクライナの国土は数日のうちに蹂躙され、ゼレンスキーは国外に逃亡するだろうと考えた識者も多かったような気がします。

 しかし、そうはならなかった。ロシアのGDPはウクライナの約10倍、軍事面でも航空戦力は約10倍、砲戦火力や装甲戦力も数倍から10倍の差の差があると言われる中、伝えられるウクライナ軍の(思わぬ)善戦は何を意味しているのでしょうか。

 ロシアによるウクライナ侵攻開始当初は石油・ガス価格が跳ね上がり、ロシアに思わぬ巨額の利益をもたらした。だが、こうした局面は既に終わっていると、3月29日の米紙「THE WALL STREET JOURNAL」は報じています。

 同紙によれば、戦争が2年目に突入する中、ロシア国内では西側の制裁による打撃が広がり、政府の財政も厳しさを増している。経済は低成長軌道へとシフトし、長期的に脱却できない可能性が高まっているとのこと。

 一方、ロシアの若者は、前線に送られるか徴兵への懸念から国外へ逃れるかして労働人口が縮小。先行きの不透明感や社会不安が経済の重しとなって、企業は急速に設備投資を抑制しているということです。

 さて、(それでも)東西冷戦時代に青春を過ごしてきた私たちの世代にとって、ソ連(=ロシア)のイメージは鉄のアーテンの向こうにある不気味で屈強な超大国にほかなりません。ジェームズ・ボンドやトム・クルーズが戦ってきたのはいつも「東側」の諜報機関であり、一つ誤れば米ソの核戦争によって人類は滅亡の危機に陥る(はずだ)と教えられてきました。

 翻って、現在、国土防衛に必死なウクライナを相手に苦戦を強いられ、疲労が蓄積しつつあるロシアの国力の実態は果たしてどのようなものなのか。4月27日の日本経済新聞の経済コラム『大機小機』に、「ロシア、経済より軍事に存在感」と題する一文が掲載されていたので、一部を紹介しておきたいと思います。

 ロシア・中国と西側諸国との対立の深まりで、世界経済の軍事・経済バランスに注目が集まっている。実際、ウクライナへの全面侵攻でロシアの経済は大きな影響を受けており、現状の把握は難しいと筆者はこのコラムに記しています。

 開戦直前の2021年時点で、世界主要国の国内総生産(GDP)・人口・軍事支出を簡単に比較してみと、為替換算した21年の名目GDPは、米国が23兆ドル、中国が18兆ドル、日本が5兆ドルとのこと。

 これに対し、ロシアは1.8兆ドルで、日本の(実に)半分以下に過ぎない。ロシアの一般物価水準は非常に低いことからこれを購買力平価に直しても、日本の8割程度の経済規模だということです。

 ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)による2021年の軍事支出の推計によると、米国の軍事費が8100億ドルと、中国の3倍近くになっていることが見て取れる。一方、同年のロシアの軍事支出は700億ドル弱で米中よりかなり小さく、日本の防衛予算500億ドルの1.4倍程度に過ぎないと筆者は指摘しています。

 2023年の人口規模をみると、中国が14億人強で突出する中、米国は3億人強、ロシア1.4億人強。日本の1.2億人強と比較しても、ロシアはその1.2倍程度に過ぎない。整理すれば、ロシアのGDPは日本より小さく、人口・軍事支出の規模は日本より多少大きい程度で、米、中よりも大幅に小さいということになります。

 しかし他方で、ロシアには核保有国として非常に大きな存在感がある。SIPRIの推計によれば、22年1月時点での核兵器の弾頭数は5977発で、米国の弾頭数5428発を上回っていると筆者はここで指摘しています。

 他の国をみると、米・英・仏・ロ・中のほか、インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮が核を保有しているとされる。(「貧者の兵器」との通称を持つ)核兵器は、電力と原子炉さえあれば技術的にも比較的容易に製造できるため、途上国やイスラエルのように経済力の小さい国でも保有が可能だということです。

 ロシアは軍事面では世界で大きな存在感がある。また広大な領土に天然ガスや石油などのエネルギー資源を保有しているが、しかし経済規模は(日本人が一般にイメージしているほどには)大きくないと筆者は言います。

 超大国ロシアの幻想は、東西冷戦の歴史と各軍事力に支えられたものであり、国際社会における影響力は大きく失われている。それゆえ、ロシアがアプローチをかける中国から見ると、実は(ロシアは)核兵器とエネルギー以外でさほど重要な国ではないのではないかと話す筆者の指摘を、私も興味深く読んだところです。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿