MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

 伊皿子坂社会経済研究所のスクラップファイルサイトにようこそ。

♯67 専業主婦かキャリアウーマンか?

2013年10月07日 | 社会・経済

 人口の減少がこのままのペースで進んだ場合、2050年の日本では15歳から64歳までの人口の実に95%が就業していないと、私たちは2010年レベルの生活水準を維持できないという恐ろしい推計があります(日本経済新聞10/1「やさしい経済学」)。もちろんこれは、1人当たりの生産性が現状のまま続いた場合の仮定に基づく試算ですが、それにしても今後半世紀における日本の経済成長は、眠れる女性の力にかかっていると言っても過言ではないようです。

 安倍総理が展開する「アベノミクス」の成長戦略においては、「ウィメノミクス」が今後の経済成長を主導するキーワードの一つとして語られています。人口の減少や高齢化に伴う経済規模(GDP)の縮小が見込まれている中、国家経済の活力を補う潜在的な「資源」としての女性の存在に市場からも大きな期待が寄せられています。

 今後の生産年齢人口の急激な減少は、労働市場における女性(と高齢者)のリソースとしての価値を大きく高めていくと予想されています。しかし、女性の社会進出に対する経済界からの様々な要請が強まる一方で、出生率の低下に伴う少子化への懸念も現実のものとしてさらに深刻化しています。「結婚・出産」と「仕事」という人生における大きなテーマの狭間にあって、女性の社会へのかかわり方に関する日本人の意識というものにもずいぶんと大きな変化が生まれているようです。

 厚生労働省の社会保障・人口問題研究所では、5年ごとに実施している「出生動向基本調査」において、結婚適齢期を迎えている独身の男女(18歳~34歳)を対象に人生のライフコースに関する意識調査を行っています。

 その中で、その時々の独身の女性が「どのような人生を送りたい(送りそう)」と考えているか、併せて、独身の男性が女性(パートナー)に「どのような人生を送ってほしい」と考えているか、今後のライフプランやライフイメージに関する意識を20年間以上にわたり追いかけたデータがあります。

 失われた20年と呼ばれるバブル期以降、雇用環境の悪化が続く一方で独身男女の非婚化や初婚年齢の高齢化、合計特殊出生率の低下などに歯止めはかかっていません。そんな中、ここ10年程度(20022010)のにおける男性と女性の間に起こっているライフプランに関する意識の変化を見てみたいと思います。

 まず、「非婚就業」つまり、結婚せずに一生仕事をしながら独身で自由に過ごしたいと考える独身者の割合です。女性の場合、2002年の12.5%から2010年には17.7%へと8年間で5ポイント以上の顕著な伸びを示しているのに対し、一生独身で過ごしたいとする男性は1.6%から4.9%と微増の状態です。男女でこれだけの意識の違いがあるのですから、男性が余ってくるのは当然といえます。それだけ、女性にとっての「自立」は重要な意味を持ち、同時に結婚の「魅力」「メリット」というものが薄らいでいると言うことができるのかもしれません。

 次にバブルの時期に一世を風靡した、いわゆる「DINKS(二人で働き子供を作らない)」という結婚観です。女性については、8年間で4.0%から2.9%へと減少を見せており、「結婚するからには子供がほしい」と考える女性がやや増えてきていることがわかります。一方それとは反対に、DINKS生活を希望する男性の割合は1.4%から3.3%へと増加傾向にあり、男性が女性を追い越す形になっています。つまり、結婚を望んでいる女性に関して言えば、女性のほうが男性よりも子作りには積極的だと言うことができるようです。

 次は、結婚後も仕事を続け、仕事と子育てを両立させながら共稼ぎで頑張ろうというというライフプランです。出産後も子供を預け、引き続き仕事を続けたいとする女性の割合は2002年の17.7%から24.7%へと、8年間で7ポイントという有意な伸びを示しています。しかしながら、出産後もパートナーに仕事を続けてもらいたいと考える男性の割合はさらに急激に増えており、18.7%から30.6%12ポイント近い大幅な伸びとなっています。非正規雇用の拡大が進み若年者を中心に賃金の伸びが抑えられている雇用状況を反映してか、もしくは働く妻への理解が進んだためか、いずれにしても独身男性の約3分の1が仕事を続ける妻や母親を支持している形になっています。逆に言うと、現在の女性はそれだけパートナーから「外で働き続け、家計を支え続ける」ことを期待されていると考えることもできます。

 続いて、子供が生まれたらいったんは仕事を辞める。子育てがひと段落したのちに再び就職をしたいというライフプランです。女性の就業統計をみると現実的にはこのパターンをとる割合が最も多いわけですが、こうした状況は意識調査の結果にもきれいに反映されています。しかしこのライフプランを支持する男女は年々低下傾向にあり、女性では2002年の41.8%から2010年の36.1%へと5.7ポイント低下し、男性に至っては46.8%から35.2%へと11.6ポイントもの大幅な低下を見せています。

 最後に、結婚したら家事に専念する「専業主婦」という選択肢を理想とするライフプランです。「可能であれば専業主婦を…」と、結婚後のこうした生き方を希望する女性の割合は13.7%から9.1%へと8年間で4.6ポイント低下しているのは時代の趨勢というもの(それとも厳しい経済環境?)の現れでしょうか。専業主婦を希望する女性の割合は、調査が開始された1987年から一貫して同じペースで減り続けています。一方、パートナーが専業主婦であることを期待する男性の割合は、この間18.7%から10.9%へと8ポイント以上減少(1987年時点の37.9%と比較すると27ポイント減少)し、その割合は女性のおおよそ倍の勢いで減ってきています。

 さて、こうして見てみると、適齢期の独身男女の意識の趨勢は、押しなべて「女性が結婚・出産後も仕事を続けるというライフコース」を支持していると言えそうです。さらに言えば、その傾向は女性よりも男性のほうが顕著であり、もはや独身男性の多くは、妻が働くことに対して大きな抵抗感を示していないと言ってもよいかもしれません。むしろ女性の意識の方に、こうした意識の変化に対する保守的な傾向が強いという印象さえうかがえます。

 データから見て、妻を家庭に閉じ込めておくことに対して抵抗感がある男性が増加していることは間違いなさそうですが、それに加えてパートナーにも働き続けてもらわなければ家計が維持できないという厳しい現実も垣間見えてきます。

 そんな中で、やはり目立つのは独身を貫きたいとする女性の割合が増えていることです。1834歳までの独身女性の約18%が結婚を希望していない、もしくは「一生結婚しないだろう」と考えているという現実を見ると、厳しい経済環境のもと、彼女たちの中で結婚の「リスク」や「コスト」がどれほど高まっているのかに思いを馳せないわけにはいきません。




最新の画像もっと見る

コメントを投稿