新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態措置や自粛生活が続いた2020年度、全国の児童相談所が対応した児童虐待相談件数が、前年度より1万2349件(5.8%)多い20万5029件になったと、8月27日の時事通信が伝えています。これは、厚生労働省が公表した「速報値」で、記事によれば相談件数が20万件を超えたのは昨年度が初めて。そして、集計を始めた1990年度以降、実に30年連続で最多を更新し続けているということです。
今回、相談件数が6%近い増加を見せたことについて、専門家の間では新型コロナ感染症の広がりによる生活環境の変化との関連性が指摘されているところですが、集計結果からは直接的な影響は見られなかったと記事はしています。この件については厚労省も、「明確な因果関係は分からないが、引き続き注視していく」としているということです。
因みに、件数を都道府県別に比較すると、最も多かったのは(昨年は2位だった)東京都の2万5736件、2位は大阪府の2万4633件、3位が神奈川県の2万2093件と続いており、これは昨年度の新型コロナの感染者数とほぼ同じ傾向です。実は、虐待相談数が2万件をこえているのは全国でもこの3都府県のみ。4位(埼玉県)以下とは数字上も大きな差があるなど、ある意味興味深い結果となりました。
もちろん、これはあくまで「相談数」の集計結果なので、「虐待被害の件数」とは異なることも注意しておく必要があります。地域環境としての燐家との距離や、住民の児童虐待への問題意識、連絡を処理する警察の対応方針なども大きく影響していることでしょう。
次に、記録されている児童虐待の「内容」についてですが、内容別では、「心理的虐待」が12万1325件(前年度比1万2207件増)で最も多く、全体の約6割を占めたということです。中でも、児童の目の前で家族が暴力を振るう「面前DV」について、警察から児相に通告するケースが増加し押し上げ要因となっていると記事はしています。また、児童に対し「殴る」「蹴る」などの暴行を加える「身体的虐待」は5万33件(同793件増)で、こちらも若干の増加を見たとされています。
また、児相への通告主体で最も多いのは「警察等」で、以下「近隣知人」「家族親戚」などと続いているということです。コロナ感染対策として昨年3月以降、各地で行われた一斉休校の影響により、「学校」「幼稚園」「保育所」が通告主体となった件数は減少しているということであり、学校などが担ってきた児童生徒の「見守り機能」が低下したことで、虐待が通告されずに家庭内で潜在化している可能性も懸念されるところです。
こうした状況の中、厚生労働省の専門委員会からは、(こちらは「コロナ前」の数字ではありますが)2019年度に虐待で死亡した子どもが、前年度より5人増え78人となったとの検証結果が報告されています(時事通信2021.8.27)。2019年度における国内の虐待死被害者は、心中を除くと57人。年齢別では0歳が28人と約半数を占め、このうち生後1カ月未満が11人に及んでおり、加害者は「実母」が30人と最も多かったということです。
一口に「虐待死」といっても状況は様々であり、出産時の母親の置かれた社会的環境や産後の精神状態などを慮れば言葉もありません。児童相談所を通じた通常の児童虐待対策を進めるだけではこうした事件がなくなるとも思えず、個別の事件を検証しながら(医療や福祉などの広い観点から)必要な対応を講じていく必要があると感じるところです。
なお、心中以外の57人の事案のうち、死因となった虐待の内容は「身体的虐待」が17人で、食べ物を与えないなど「ネグレクト(育児放棄)」が13人。母親が妊婦健診を受けていなかった事例も20件に及んだと報告されています。検証を始めた2003年7月から今回までの17年間の結果を通算してみると、心中以外の虐待死は計890人。そのうち、身体的虐待によるものがおよそ6割、次いでネグレクトが3割を占めているということです。
結果を公表した専門委員会では、近年ネグレクトによる虐待死が多発していることへの懸念から、過去の傾向も併せて分析しています。それによると、10代の精神的に未熟な母親が妊娠・出産を経験したり、妊婦健診を受けていなかったりしたケースが目立ったほか、(生まれたその日に死亡する)「0日児死亡事例」では、周囲に妊娠を告げられないなど、母親の「社会的孤立が顕著」だったということです。
一口に「児童虐待」と言っても、その様態はや事情は様々で、テレビドラマに出てくるようなステレオタイプなものばかりではないようです。ただ、「最近の若いモンんは」とか「ケシカラン」などと言って非難しているばかりでは、こうした問題は解決しません。子供たちを地域社会全体で見守り、育てるという意識を持たなければ、彼らを虐待から救い出すことは叶わないでしょう。
ともあれ、まずは行政や医療機関が地域社会と連携し、母親本人と早期に接触していくなど、(自治体を中心とした)支援体制を整えていくことが求められていると、記事を読んで私も改めて感じたところです。
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