MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#1931 苦しい病院経営と儲かる開業医

2021年08月10日 | 社会・経済


 (少なくともニュースなどを見る限り)高齢者を中心に新型コロナワクチンの接種率は上がってきているようですが、それでも日々の感染者数の拡大に多くの国民が戦々恐々としているのは、医療機関のコロナ患者の受け入れ態勢がなかなか整わないところにあると言えるでしょう。
 コロナ禍と呼ばれるようになって1年半にもなるのに、なぜコロナ病床の確保は進まないのか。その大きな理由の一つとして、地域医療を担う医療機関、中でも市中の民間病院や開業医の協力が得られていないことを挙げる識者も多いようです。

 代々続く開業医や中小病院の経営者と言えば、大きな家に住み高級車に乗るお金持ちで、地域の有力者というイメージがあります。
 実際、厚生労働省の「医療経済実態調査(2020年)」によれば、開業医の平均年収は外来診療のみのクリニックで2745万円、入院診療を行う場合は3466万円とされています。これは、勤務医の1597万円(同調査)の約2倍、一般のサラリーマンの平均年収436万4000円(「民間給与実態統計調査(国税庁:令和元年)と比べると5~8倍という金額です。

 医師になるためには(ある種の)「先行投資」が必要なのは広く知られるところであり、これを(不当に)高いとみるか安いとみるかは人それぞれと言ったところでしょう。しかし、最終的には日本の地域医療が、国民皆保険制度や診療報酬制度、数々の補助金などに守られているという実態がある以上、(こんな時であればこそ)高収入を保障されてきた市中の医療機関や開業医に対し国民の期待が集まるのは当然のことのようにも思えます。

 「働き方改革」が叫ばれる昨今では、病院勤務医の過酷な勤務体制に厳しい批判の目が注がれている一方で、コロナで医療への関心が高まり、他の人の命に関わりながら社会貢献ができ、高収入で安定している医師を希望する学生は男女を問わず増えているようです。どの進学校でも「東大よりも医学部」はもはや当たり前。医師の子弟に限らず、受験生の医学部人気はうなぎのぼりとも報じられています。

 そこで本日の「お題」ですが、それではなぜ開業医はこれほど儲かる(のに、勤務医はそれほどでもない)のかということ。国際医療福祉大学大学院教授で精神科医の和田秀樹氏は、7月25日の総合経済サイト「PRESIDENT Online」に寄せた「コロナ患者は受け入れたくない病院がすぐ逼迫するウラにあるエグいお金問題」と題する論考において、その辺の事情を説明しています。

 日本の医療において私が最も「いびつ」だと思うのが、開業医と勤務医の収入格差だと、氏はこの論考に綴っています。外来中心の開業医の収入は、病床のある民間病院の勤務医の2〜3倍もあり、両者の間にこれほどの収入格差がある国は、海外のどこを探しても日本以外にないというのが氏の指摘するところです。

 アメリカでは病院に1泊入院すると最低でも約2000ドル(20万円以上)とられるが、日本では、特別な部屋や高度治療を必要とする入院を除けば1万円台から数万円に抑えられている。外来収入より、入院収入が多い病院ほど儲からない仕組みになっており、当然、そこに勤める勤務医の収入も多くないと氏は言います。

 一方、開業医は外来診療に特化しているケースが多く、病床があっても数床で、こちらのほうが(労は少なく)儲かる仕組みになっている。これは日本医師会が開業医のために活動してきた結果であり、診療報酬が改定されるたびに民間病院は割が悪くなっているのにも関わらず、開業医の既得権益は維持され続けてきたということです。

 実際、土地代や建物代も高く人件費も高い大都市圏を中心に、多くの病院が赤字を出していると氏はしています。なので、大きな病院がたくさんある東京にも、純粋に民間の大病院はあまりないということです。
 一方、地方では(ある程度)状況が異なると氏は言います。徳洲会グループが選挙のたびに何十億円も用意できたのはそれだけ儲かっていたから。東京でも地方でも診療報酬の点数は同じなので、同じ規模の病院であれば東京でも地方でも収入は変わらない。収入が同じなら、経費が安いほうが儲かるという単純な話だと氏はその理由を説明しています。

 また、病院に対しては病床数に対して必要な医者や看護師の人数が決められている。そのため、医者や看護師の人員削減や効率化を行うことができず、逆に医者や看護師の人員を確保できなければ病床数を減らすしかないというのが氏の認識です。こうしたこともあって、慢性的に医者不足に陥っている病院も多く、経費削減がうまくいかなかった病院の倒産や統廃合が進んだということです。

 因みに、このような状況もあって、民間病院の多くは新型コロナ病床を設置することに後ろ向きだと氏はこの論考で指摘しています。
 病床を満床にしていればそれなりに儲かる病院では、新型コロナ病床を設置するとそこに人員をとられてしまうため、それ以外の病床も閉じなければならなくなる。あるいは、新型コロナ担当に命じた医師や看護師が((自分の)子どもがいじめられるのが嫌だからなどといって)病院を離れてしまうと病院運営ができなくなってしまうので、コロナ病床を設置できないことも考えられるということです。

 いずれにしても、厚生労働省の病院に対する縛りが民間病院の経営悪化を招き、待遇に満足できない医師が(経営努力がさほど求められない)診療所を開業することで、勤務医の勤務環境の悪化をさらに助長しているのはどうやら現実のようです。
 こうした状況を踏まえ、コロナ病床の確保が進まないのも、もとを質せば(医師会の政治的圧力などを受けた)厚労省の指導が現状に合っていないからだと考える和田氏の指摘を、私も大変興味深く読んだところです。
 


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