MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#1930 低迷の原因は「日本人の意地悪さ」にあるという話

2021年08月09日 | 社会・経済


 バブル経済の崩壊以降、30年にわたって日本経済がほとんど成長できていない本当の原因は何なのか。5月12日の「Newsweek日本版」に、経済評論家の加谷珪一氏が「日本経済、低迷の元凶は日本人の意地悪さか」と題する興味深い論考を寄せています。

 バブル崩壊によって傷ついた日本経済が成長できなくなった最大の理由は、(一般的に)経済の屋台骨だった製造業が、グローバル化とIT化の波に乗り遅れ国際競争力を失ったことにあると考えられています。
 しかし、本当にそれだけなのか。成熟した先進国は(ふつうは)豊かな消費市場が育っているので、輸出競争力が低下しても国内消費(つまり内需)で成長を継続できるケースが多い。実際、アメリカやイギリスは、製造業の衰退後も内需を原動力に高成長を続けていると加谷氏は指摘しています。

 日本は他の先進諸国と同様に、十分な内需が存在しているはずだが、どういうわけか日本の国内消費は低迷が続いており、これが低成長の元凶となっている。消費増税が原因であると野党は言うが、欧州各国が15~20%という高い消費税率であるにもかかわらず順調に成長している現実を考えると、この理屈は当てはまらないというのが氏の認識です。

 日本だけが消費を拡大できない理由は長年謎とされてきた。しかし近年、経済学と脳科学を組み合わせた学問の発展によって、ヒントになりそうな研究成果が得られていると氏はしています。
 それは、(簡単に言ってしまうと)日本人は諸外国と比較して「意地悪」な人が多く、他人の足を引っ張る傾向が強いというもの。十分な内需のある日本が他の先進国のように成長できない大きな要因は、日本人の(内向きな)メンタルにあったということです。

 加谷氏はここで、大阪大学社会経済研究所を中心とした研究グループのレポートを紹介しています。
 この研究において、被験者に集団で公共財を作るゲームをしてもらったところ、日本人はアメリカ人や中国人と比較して他人の足を引っ張る行動が多いという結果とが認められたと氏は言います。日本人は、他人を他人と割り切れず、互いに相手の行動を(自覚なく)邪魔している。敢えて認めたくはないものの、この実験結果は身近な感覚としてよく理解できるというのが氏の指摘するところです。

 日本では何か新しい技術やビジネスが誕生するたびに声高な批判が寄せられ、スムーズに事業を展開できないケースをよく見聞きする。その間に他国が一気にノウハウを蓄積し、結局は他国にお金を払ってその技術やサービスを利用することになっている例は数多いということです。
 欧米ではリスペクトされる成功者も、日本では多くの場合「妬み」の対象となる。なので、自身の経験を積極的には他人に語らず、成功のロールモデルも共有しにくいが、これでは消費経済が活発化するわけがないというのが氏の見解です。

 従来の経済学では、人間は合理的であるとの大前提があり、内面には立ち入らない基本原則があった。このため、国民のメンタル的な傾向と経済はあえて関連付けられないできたが、実は多くの専門家が、日本が消費経済を拡大できないことにはメンタルな部分が影響しているのではないかと疑っていたということです。

 今回の一連の研究結果は、何となく分かっていた事実を改めて顕在化したものと考えてよいだろうと氏は考えています。
 大阪大学は近年、こうした新しい研究を積極的に行っており、同大学の別の研究グループによると、「新型コロナウイスルに感染するのは自業自得だ」と考える日本人の比率は、11.5%と中国の4.83%やアメリカの1%などと比べて明らかに突出しているとされています。

 さて、確かに日本の経営者は、いくら儲かっていたとしても「ボチボチでんな」ととぼけてばかりで、企業による景況感も現実よりも下振れしがちです。「ウハウハですわ」などと景気良さそうにしていても(足を引っ張られるばかりで)よいことは一つもないし、何かあったらあったで「そら見たことか」と叩かれるのが目に見えています。

 同様に、(大都市の一部の地域を除けば)お金があっても目立つ消費はせず生活を慎ましく見せるのが大人の作法とされており、今でも「あの家は外車に乗っている」と御近所から後ろ指をさされる地域が国土の大半を占めているのが現実を直視する必要があるでしょう。

 あそこの家で「コロナが出た」と噂になれば「そういえば派手な格好で出歩いていた」と陰口をたたかれ、都会で暮らす子供や孫の姿が見たくても「コロナでご近所がうるさいから今年は帰ってきてくれるな」と言わざるを得ない。そうした日本の社会の状況を考えれば、「日本人は互いに相手の行動を(自覚なく)邪魔している」とする大阪大学の調査結果も、あながち間違いだとはいえなさそうです。

 消費経済低迷の根本原因がメンタルにあるとすると厄介だが、(逆に言えば)この部分さえ改善すれば劇的な効果が期待できるということでもあると、加谷氏はこうした結果を(一定程度)前向きに受け止めています。
 グローバル社会の広がりの中で、そうした島国根性さえ何とか出来れば日本も再生できる。お大臣は、せっせとお金を使うのも仕事のひとつ。どんなお金も死んでしまえば紙切れに過ぎないと割り切って、ため込んだりしないのが世のため人のためというものでしょう。

 他人の評価などを気にせず消費を謳歌できる環境は、成功者をきちんと評価できる社会から生まれる。つまらない横並び意識やひがみ根性を捨て、消費は決して悪いことではないと胸を張って言える世の中は、案外暮らしやすいかもしれません。
 これからの時代は、ますます消費経済が成長のカギを握るようになる。日本を再び成長軌道に乗せるには、社会全体の意識改革が求められているのだろうとこの論考を結ぶ加谷氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。


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