Inside Your Head 5
「昨日お店に行ったらあの雑誌に載っていた綺麗なオーナーさんがいて、直々に採寸してくれたの。」
莉桜の存在を感じる言葉に
いちいちドキッとしてしまう
「そう、なんだ… 」
「でね、雑誌どおりの綺麗な人だった。」
「そうなんだ… 」
莉桜は今頃どうしてるんだろ…
「でね、なんかショーがあるとかで招待状をもらったの。」
へぇ…
最近はショーもやってるのか
ますます忙しくしているんだろうな
「そうなんだ… 」
仕事モードの莉桜は そこら辺の男よりも
仕事のことで頭いっぱいになってたもんな
「海人くんも一緒にショー見に行く?」
莉桜が男だったら俺なんかよりずっと格好良い奴だったろうな
え?
“海人くんも一緒にショー見に行く??”
「えっ!? 俺はいかないよっ!だって女性のランジェリーショーでしょ?」
「だよね(笑) さっきから上の空で “そうなんだ~ ”しか言わないから(笑)
やっと違う言葉が聞けた(笑)」
元カノと今カノが顔を合わせたってことが
自分が思ってた以上にヒヤヒヤする
別に俺は間違ったことはしてないけどっ
彼女がもらった招待状には莉桜の顔写真が載っていた
相変わらず綺麗だな…
…莉桜
「え?」
俺、名前 口走った!?
理奈ちゃんが招待状を覗きこんできた
「海人くんは直ぐにこの(リオという)漢字読めたんだ」
「あー、珍しい漢字だよねぇ、、」
冷や汗が出てきそうだった
「…なんかね、オーナーさん独身らしい。
彼氏はいるみたいだよ。当然だよね、綺麗な人だもん。」
ーー 胸に何か鋭いものが刺さった
彼氏… いるんだ
「そっか… 」
「でもね。もう一年も連絡も取ってなくて会ってもないんだって。」
え… それって
「それは別れたのと同じじゃないのかなと私は思ったんだけど…
オーナーさんには気持ちがあるみたい… 」
恐る恐る聞いた
「 …この人がそう言ったの?」
「うん、、彼氏からの連絡を待ってるって… …」
苦笑いをした
嘘だ…
そんなの嘘だ ーー
だってあの時
莉桜はあんなに冷たく俺を突き放したのに
もう愛想が尽きたかのように吐き捨てたのに
「理奈ちゃん ごめん… 俺、帰るわ 」
立ち上がり上着を持った
「海人くん、待って、、」
「ごめん、また連絡するから!」
俺は立ち上がり
彼女の顔も見ず玄関のドアを閉めた
この時
俺は莉桜の事しか頭になかった
理奈ちゃんがこの時
どんな表情をしていたのか
どんな思いだったのか
俺には気付きもしなかった ーー
俺は車のエンジンをかけ
莉桜のサロンに向かっていた
莉桜が俺を待ってるなんて
そんなの嘘だ…!
でもそれが本心なら俺は…
莉桜に確かめたかった
確かめるために会う
ただ それだけだ
俺はもう莉桜を愛してない
愛してない…
彼女のサロンの前に車を停め
ゆっくり扉を開けた
若い店員が笑顔で歩み寄ってきた
「あの… オーナーさんは… 」
「オーナーですか?呼んで来ます。お名前は ?」
名前を告げると店員が奧に呼びに行った
彼女に会うのは一年ぶりだ…
心臓の鼓動が外にも聞こえそうなほどドキドキしている
ーーー 奧から莉桜が現れた
「海人… 」
一瞬で
莉桜と過ごした時間まで
一気に巻き戻されたような錯覚がした
「…君に聞きたいことがあって… 」
彼女は優しく微笑んだ
「外に出ましょ。」
サロンの近くのカフェで
今、莉桜と向かい合わせて座っている
現実味がない
まるで幻を見ているようだった
「海人… 元気だった?」
優しく微笑む彼女
あの頃は
こんな穏やかで優しい表情はしなかった
「俺達… もう一年前に終わったんだよな… 」
悲しげな笑顔に変わった
「…そう、なのね 」
「莉桜は違うの?それが聞きたかった」
「あなたが終わったと思ってるなら終わったのよ」
「そうじゃなくて!君の本音が知りたいんだ。君の考え、君の気持ちが知りたいんだよ。」
少しの沈黙が俺の心を焦らせる
「私は… 私は… あなたを待ってた。私があなたを酷く傷つけてしまったことはわかってる。だからこそ、都合よく私から連絡して会いたいなんて言えなかった。」
「なんだよ… それ。やっぱり君は自分勝手だ。俺は君を、君を、ずっと待って…
でも もう終わったんだと自分に言い聞かせて
やっと諦められたのに…
俺、本当に君を愛してたんだよ… 」
彼女の目から大粒の涙が流れ落ちた
「ごめんなさい… 海人がいなくなって…
海人の存在の大きさが身にしみてわかった…
海人は私にとってとても大切な存在だったって 」
ーー莉桜
俺 やっぱり
君を愛してる ーー
「俺達… もう一度やり直さないか…
やっばり莉桜を愛してる」
俺は彼女の涙を初めて見た
いつも どんな時でも気丈だった彼女が
それだけで彼女の気持ちが伝わった
その夜…
俺達はお互いの愛を確かめ合うように
優しく何度も抱きあった
ーーー
理奈ちゃんという彼女がいるのに元カノとやり直した俺は
最低最悪な男だ ーー
罪悪感で理奈ちゃんに連絡しずらくなってからもう二週間は過ぎた
俺と理奈ちゃんの関係を終わりにすることをきちんと告げなければいけない…
どう伝えれば傷が少なく済むだろう
でも… どんな言葉を使ったとしても
別れを告げることは傷ついてしまうことに変りはない
何も浮かばなくてモヤモヤと過ごしている時
理奈ちゃんからメールが来た
『海人くん。どうしてる? 会いたいな♡』
胸が痛む ーー
彼女は何も悪くない
自分勝手なのは俺
なのに傷つくのは彼女
どう返事したらいいんだろう
でもこのまま先伸ばしするのは …
『明日の夜、行ってもいい?』
その返事は直ぐに来た
『うん!海人くんの大好物を作って待ってるね!』
理奈ちゃん …
理奈ちゃんへの最適な言葉はやっぱり見つからないまま
約束した夜になった
「待ってたよ(笑)」
凄く嬉しそうにドアを開けた理奈ちゃんの笑顔に また心が痛んだ
理奈ちゃんが言っていたように
俺の好物ばかりがテーブルに並んでいた
「理奈ちゃん… あの、俺」
「早く座って! 全部食べてね!」
ずっと嬉しそうな笑顔に
心がいたたまれなくなるーー
その笑顔に促され 俺は箸を持った
理奈ちゃんは本当に料理が上手くて
初めて彼女の家庭的な手料理を食べた時
心がほっこりして幸せな気持ちになったことを思い出す
俺ばかりが沢山の幸せを貰ってばかりだった
心が癒され 救われた …
理奈ちゃんの顔をチラッと見た
「美味しくない?」
「いや … 違うんだ…
今日は理奈ちゃんに話があって来たんだ。」
「ちょっと待って、、ご飯、ご飯食べてから話を聞くから。」
切なく微笑む彼女
まさか俺が言いたいこと
何となくわかってるのか?
理奈ちゃんのささやかな希望を
俺が少しでも叶えられるなら …
俺のために心を込めて作った手料理を
俺は精一杯食べた
「理奈ちゃん、あのさ… 」
「う、ん… 」
揺らいでいる声に
今にも泣きだしそうな目
あぁ… 駄目だ
俺 やっぱり言えない ーー
「別れよって、言いに来たんだよね… 」
え ーー
「なん… で… 」
どうしてそれがわかったのか
動揺した …
「莉桜さんと寄りを戻すことになった?」
「どうして… 」
「莉桜さんのサロンで莉桜さんと海人くんのフォトプックを見たの。
あれ見たら二人は恋人同士だったんだってわかった。
あのフォトブック…
莉桜さん、大切にしてた。
写真の海人くんを見つめる目はまだ海人くんに想いがあるとわかった。
だから莉桜さんに想いを聞いたの。
私と海人くんは“友達”だと言ったら話してくれた。
彼女はまだ あなたを待ってるって言ってた。」
「なんで理奈ちゃんはそれを俺に伝えたの… ?俺に言わなきゃわかんなかったのに… 」
静かに涙を流しながら
ポツリ ポツリ… とまた話し出した
「それを伝えても海人くんの心が揺らがなかったら本当に私の彼氏の海人くんでいてくれてるって自信を持って思える。
もしも… 彼女の元に戻ってしまったなら
私は彼女ほどあなたに愛されてなかったんだと諦めがつく…
海人くん、はじめに私に言ってたよね?
まだ元カノを忘れられてないって
私、ずっと恐かった …
やっぱり元カノが忘れられないから別れよって、いつ言われるのかなって
私と一緒にいた海人くんは私だけを見つめてくれてた、きっともう大丈夫、今は私が愛されてるんだと
そう 安心して思いたかった
彼女のことを話しても あなたは私から離れないって
…そう 思いたかった 」
その健気な想いに
俺は胸が張り裂けそうになった
「 …ごめん 」
「もう… わかったから」
涙でいっぱいの理奈ちゃんは
精一杯 俺に笑顔を向けた
「私たち… 別れよっか… (笑)」
俺は…
やっぱ最低だーー
理奈ちゃんは俺をあんなに幸せな気持ちにさせてくれたのに
あんなに優しい気持ちになれたのに
なのに俺は理奈ちゃんを裏切ってしまった
こんなに悲しい想いをさせてしまった
涙が出そうなのを堪え
部屋を出た ーー
俺には
泣く資格はない
ーー ごめん
理奈ちゃん…
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