君に花束を (後編)
またこの店で会えるなんて…
彼女は少し痩せたように見えた
「高崎さん、、いらっしゃいませ(笑) 」
「こんにちは、、元気になって良かった(笑) 」
そうは言ったものの
以前のような元気がないような気がする…
俺の気のせいだろか…
親しくもない間柄なのに病院にまで訪ね
花と手紙を届けた男のことを不審に思っても仕方がないと思う
「また… お花を贈られますよね(笑) 」
「あ、うん(笑) えーっと… どれにしようかなぁ(笑) 」
あ、このネモフィラという花の感じ…
栞ちゃんみたいに可憐だ(笑)
「この… ネモフィラという花… もらおうかな(笑) 」
メッセージカードを差し出された
どうしよう…
なんて書こう…
やっぱり 今の気持ちを…
“ また会えて良かった 高崎 ”
「会いたい方に… お会いできたんですね。」
やっぱり気付かないわな(笑)
「あぁ、、(笑) そうなんだ。」
この花 本当に栞ちゃんみたいだ(笑)
「良かったですね(笑) 」
「ん… 」
本当に…
またこうして君と向かい会えている
それが今 とても嬉しいんだ
でも このままじゃダメだ
俺は 君に告白をしないといけない
「ちゃんと彼女に想いを… 伝えようと思う(笑) 」
「やっぱり… 好きな人、なんですね。」
「…ん 初恋の人(笑) 子供の頃好きだった人なんだけど… また、、ね(笑) 」
「きっと… 高崎さんの想いは届いていますよ(笑) 」
ーー それって … どういう意味
「本当に… そう、かな。」
君は俺のことを
どう思っているんだろう
やっぱり
ただの客の一人なのか
ーーー
田中から電話があった
また飲みに行こうや!という誘いだった
『そうだ、 栞ちゃんに会えたか?』
「せっかく教えてもらったからな。」
『おっ!? そうか(笑) どうだった!?』
「どうって… 」
昔と変わらず 可憐だよ
なんて本音 恥ずかしくて言えない
「まぁ… 変わってなかったな。」
『それだけ? 恋の再燃は無かったかぁ(笑) 』
ドキッ!
「… 再燃なんて… そうそうするか?」
『どうだろ? わからん(笑) でもタイプの女に成長してたらありうるんじゃ?』
あー。なるほど。
『林が栞ちゃんに連絡取ったみたいだぞ。栞ちゃんには好きな男がいるそうな(笑) 高崎。残念だったな(笑)』
ーー 好きな男が… いる…?
知らなかった…
考えもしなかった…
どうして俺は今まで考えなかったんだ
好きな男とか 彼氏とか いてもおかしくないのに
『… お前。ほんとに栞ちゃんのこと好きなの?』
何も言えずうなだれた
『え!?… マジ? 冗談、、 』
なんで俺はそれを先に確かめなかったんだ
アホは俺だな…
『おい、高崎、』
「あっ、スマン… 」
『今夜飲みに行くぞ!出て来い!』
ーーー
田中の誘いで飲みに出た
俺に気を使ってなのか
くだらない話で笑わせてくる
こいつのこういう所が俺は好きなんだ
「お前の気持ち、伝えた?」
「言おうと思ってた。でも、、恥かかなくて済んで良かったわ(笑)」
田中はムッとした表情に変わった
「そういうとこお前らしいけどさ。それで構わない訳?」
その言葉はチクッと胸に刺さった
「じゃあどうしろと?」
「そんなの本人に直接聞いてみないとわかんないだろ?」
「まぁ そうだけど… な。」
俺に玉砕してこいって?
この歳で玉砕なんてしたくないぞ
「俺なら玉砕覚悟で告るけどな(笑) 」
あー、そういうのはお前らしいわ(笑)
「俺はお前のようにそんな強いメンタルは持ち合
わせてないからな(笑) 」
「それは違うぞ。」真面目な表情に変わった
「言わなきゃずっと引きずる。俺は後悔したくないからだ。これ以上 後悔を増やしたくないからだ。」
ーー 田中は今までいろいろあったからな
この前向きな性格があったからこうして明るくいられるんだろう
「田中なら直球で聞いて確かめるんだろうな(笑)」
「当たり前だろっ?お前も男なんだから直球で聞け!(笑)」
ははは… 本気で玉砕してこいってことかい!!
ーーー
彼女の勤める花屋の休日は火曜日
初めて彼女のプライベートの時間を俺に分けてもらえることになった
火曜日は本当は仕事だけれど休みをもらった
慶弔以外で休暇を取ったのは初めてだ
彼女とは俺達が通った小学校近くのカフェで待ち合わせた
このカフェはウッドデッキの席があり庭があり
その庭には沢山の木や花が植えられていて
この店のオーナーのセンスの良さが表れていた
明け方近くまで雨が降っていたようだけれど夜明けと共に良く晴れた
まだ濡れた葉や木々は緑が濃く
まだ雨の匂いが残っている
「高崎さん、おはよう…ございます(笑) 」
「おはようございます… (笑) 」
彼女は大切そうに抱えた花束を僕に差し出した
「こちらで、良かったですか?」
俺は彼女に花束をオーダーし
持ってきて欲しいと頼んでおいたものだった
花は指定していた “ネモフィラ”
俺がイメージする彼女に似た花…
こうして彼女とカフェで向かい合わせて座っているのが夢みたいだ…
「今日はどうしてこちらに… 」
休日に、しかも配達を頼むなんて初めてで明らかに戸惑っている
花の代金を入れていた封筒を彼女に手渡した
珈琲がテーブルに運ばれ 良い香りが漂った
「ここで… この花束を渡そうと思って。」
「高崎さんが想っている方にですね。」
「そうです(笑) 」
気まずそうな表情になった
「じゃあ、私は帰ります、ね(笑) 」
立ち上がろうとした
「待って、、藤本さん、、」
「でも、、」
「いいから(笑) 座ってください。」
二人で珈琲を飲みながら緑の香りが漂う庭を眺めた
穏やかに時間が流れる
俺は この花束を渡す君への想いを話した
子供の頃 同じ学校で クラスメイトで
誰よりも花が好きな子で
花瓶に挿された花の世話も彼女だけがしていて
でもそのことを誰も気にかけていなくて
俺だけがいつもその子を目で追っかけていた
病弱なその子のことがいつも気になって
学校を休んだ日はソワソワした
それが初恋だと 俺はのちに自覚した
「大人になってまた出会えたことが嬉しくて… (笑) 」
「どうして… そんなこと私に話すんですか… 」
ーー え?
彼女は悲しそうな表情をしていた
「そういうことは… その方に直接話せば良いことじゃないですか… 」
「藤本さ… 」
涙が溢れ 頬を伝った
「すみません、私、帰ります。」
「違う、待って! この花は君にっ!!」
彼女は驚いて俺の目を見た
「今 俺が話したのは… 君… 栞ちゃんのことだ…
このメッセージカードに書いてきた言葉も全て君へのメッセージなんだ… 」
ポケットから今までのメッセージカードをテーブルに置いた
「黙ってて悪かった。はじめから君にクラスメイトだった高崎だと告げれば良かったのに。
ずっと言わなきゃ言わなきゃって思ってたけど俺は意気地がなくて言えなくて…
君に好きな奴がいるって… 林から聞いて…
でもやっぱり俺は君が好きだ。この気持ち もう抑えきれなくて。
好きな奴がいても構わない。俺は君が、好きだ。」
彼女が ゆっくりとまた席についた
「ごめんなさい… 」
申し訳なさそうにうつむいた
そうだよな…
好きな奴がいるんだもんな
「いいんだ。俺が一方的に、」
「クラスメイトとは気付かずに… ごめんなさい… 」
「そりゃそうだよな…(笑) 話すことあんまりなかったもんな、ははっ(笑) 」
「高崎さん… 私は 」
ーーー
カフェを出て 二人で小学校の前を歩いた
「久しぶりです(笑) ここに来るの(笑) 」
「俺も久しぶりだよ(笑) 」
外の花壇の場所も昔と同じ所にあった
「あの花壇も懐かしい… ふふっ(笑) 」
「栞ちゃん… あの頃の俺のことは覚えてなくてもいいんだ。今の俺をもっと知ってくれれば… 」
「覚えてますよ? 高崎さんのことは。」
え?
「休んだ次の日 必ず千夏ちゃんが言ってたの。
『あいつが栞ちゃんのことを、今日も休みなのか?病気なのか?と聞いてたよ』って(笑)
でもそれが高崎さんだったことは覚えてなくて… ごめんなさい(笑) 」
なんだ!それでみんな気付いてたのか!
恥ずかしい!!
河川敷の土手を下ってベンチに座った
時々 爽やかな川風が吹いてくる
「高崎さん… その花… 」
俺の持っている花を見つめた
「その花を指定したのはどうしてですか?」
「これ… 栞ちゃんみたいに見えたんだ。今日の空のように爽やかなこのブルーが君のように見える。
そしてとても可憐だろう?(笑) 」
少し驚いた表情に変わった
「ネモフィラの花言葉… 知ってますか?」
「花言葉? 」
「いろいろありますが… “可憐” という花言葉もあるんです。ご存知なのかと(笑) 」
「そうなのか。ならやっぱり栞ちゃんにぴったりだな(笑) 」
立ち上がって彼女の前に立った
「メッセージカードじゃなくて、ちゃんと君にもう一度言わせて欲しい。」
彼女も立ち上がって俺の目を見つめた
「好きです。クラスメイトだった頃みたいに… いや、あの頃よりもっと好きです。」
両手で差し出した花束を 彼女は受け取ってくれた
「私もあなたのことが好きです。千夏ちゃんに話した好きな人とはあなたのことです。」
そう… だったのか
「高崎さんの想う人が羨ましかった… ずっと。どんな人なのかなってずっと考えてました。だから… 本当に嬉しいです。」
栞ちゃん…
「俺と、付き合ってください。」
彼女の腕の中で風に揺れるネモフィラのように
彼女は優しく微笑んだ
「高崎くん、ありがとう。こちらこそ… (笑) 」
「高崎“くん” か(笑) またあの頃から始める?? 」
また 田中や林にからかわれそうだな(笑)
色の無いつまらない毎日を過ごしていた俺に
まるで色とりどりな花ように
生きることの楽しさや人を想う切なさや心が踊るような想いをまた思い出させてくれた
お節介なあいつらにも感謝するよ(笑)
ーーー 俺達はまた あの初恋から始める
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