なぜディズニーに行くと感動するのか?秘密は「5つの成功体験」
『ディズニー 「感動」のプロフェッショナルを育てる5つの教え』(ブルース・レフラー、ブライアン・チャーチ著、月沢李歌子訳、朝日新聞出版)はその名のとおり、ディズニーの「感動」の秘密がわかる興味深い書籍。
ディズニーで人材育成プログラムを作成した著者が、最高のサービス精神を育てる「I.C.A.R.E.(アイケア)」の5原則を明らかにしているのです。
ウォルト・ディズニーは「舞台裏で行うことが結局は舞台上に現れる」といっていたそうです。
だとすれば企業がつくり出す体験に関しては、従業員、マネジャー、経営陣には、自分がすべきことを知り、目指すべきものを理解し、改善のための計画やプロセスを策定する責務があるはず。
「I.C.A.R.E.の原則」はそのための手段だというわけです。
I:印象(Impression)・・・絆の構築を促す触媒
C:つながり(Connection)・・・絆を結ぶための要
A:考え方(Attitude)・・・考え、発言、行動のフィルター
R:応対(Response)・・・サービスは個別の対応によって決まるという考え方
E:最上のもの(Exceptionals)・・・人間関係構築のスキルの実践
これこそ、ディズニーなどの優良企業がライバルと一線を画す要因となっているということ。
そして著者いわく、感動体験には5つのレベルがあるのだとか。ひとつひとつを確認してみましょう。
<人間味がなく、不快感を与えるような体験を提供し、やる気のなさ、無関心、無気力が感じられるサービス>
“有毒”な企業が提供するサービスは顧客を怒らせ、苛立たせるもの。ここでいう有毒とは、やる気のなさ、無視、無関心など、従業員のネガティブな態度。
サービス体験として最低の水準であるため、顧客を失い、倒産する危険を冒していながら、それを現場の人間は気にせず、リーダーも認識していないということ。
<従業員は形だけのサービスを提供し、現状に満足している。ありきたりで、味気のないサービス体験>
有毒な体験ほどではないにしても、平均的な体験も同じように受け入れがたいもの。この水準の企業は、顧客のニーズを満たしていないわけです。よくも悪くもなく、ただ形だけのことをするのみ。
しかし凡庸なサービスを提供する企業や人間は、他者の心を動かすことができなくて当然です。たとえば子どものことを思う親は、「がんばって“平均点”をとりなさい」とはいわないはず。
もちろん平均的な水準で我慢できる人もいるかもしれないけれども、卓越したサービスを期待する人には耐えられないものになってしまうわけです。
<従業員が前向きで、親しみやすく、感じがよい。顧客やクライアントの多くがポジティブな体験をし、尊重され、歓迎され、重要視されていると感じる>
少なくとも、この水準を出発点とすべきだと著者。現実的にはレベル1とレベル2が全体の約60%を占めるそうですが、成功を望むなら、そこに甘んじてはいけないということ。
このレベル3をスタートラインとして、卓越した体験を確立していく必要があるといいます。
<一貫してすぐれた顧客体験を重視するサービス。従業員が個々の顧客に応じた対応をしたり、関係を構築する体験を生み出したりしようと努めている>
この水準の企業や個人は、顧客のために格別な努力をするもの。従業員にとって好ましい環境を用意し、すべての面において超一流のものをつくり上げるといいます。
独自の発想、積極的な考え方、強いエンゲージメントが見られ、ライバルとの差別化を図るために尽力するのが特徴。
<すべての従業員が顧客ひとりひとりにとって特別な「体験」を、ライバルを大きくしのぐ水準で創出。卓越したサービスはその一部>
サービスをまったく新しい水準に引き上げる卓越した企業は、他に類のない、心に残る体験を創出するもの。
それによって、機会あるごとにその体験を口コミで広めてくれるアンバサダーを育成するのだといいます。
そして、もっとも重要なのは、お客様に口コミで体験を広めてもらうこと。そのためにはすぐれたサービスが不可欠なので、1レベルずつ改善を図り、レベル4やレベル5の体験の提供を実現することが重要だと著者は主張します。
ディズニーは見事にレベル5を実現しているだけに、こうした著者の考え方には強い説得力があります。サービスの本質を突き詰めたい方にとっては、大きな意味を持つ一冊であるといえます。