敬愛する慶一郎氏の遺作。
本書もまさかの未完。
本当にいいところで終わってしまっているんだなあ・・・
他の慶一郎作品と同様、非常にすっきりと気持ちのいい男達が活躍する。
いつもそうだけど、男に生まれていたら、こういう風に生きてみたいと思わせる。
ところで、本書は『葉隠』をもとにした時代小説。
『葉隠』とは肥前国鍋島藩に伝わる武士の心得書。
朝毎に懈怠なく死して置くべし
武士道と云ふは死ぬ事と見つけたり
恋の至極は忍恋と見立て申し候
などで有名らしい。
らしいというのは、わたしはまだ読んだことないからね。
三島由紀夫が座右の書としていたらしい。
『葉隠』は戦時中は陸軍将校の愛読書だったらしい。
その『葉隠』との出会いから本書を執筆するに至った経緯が
本書の冒頭で説明されている。
徴兵された際『葉隠』をくり抜いてランボウの『地獄の季節』を埋め込み
軍に持ち込んだこと、活字に飢えてやむなく『葉隠』を読むようになり
いい加減に読み飛ばしエピソードばかり読んだ結果が意外に面白かったこと、
『葉隠』の「野放図で、そのくせ頑なで、一瞬先に何をしでかすか全くわからない、
そうした人間像がひどく魅力的だった」らしい。
隆氏が云う「僕の葉隠」は、いわゆる正当な『葉隠』解釈とは異なる。
「無茶苦茶にデフォルメされた、ほとんど別物」のお話で
「手に汗握り、血湧き肉躍る態の大ロマン」だったのだ。
本人は歴史的な書をこんないい加減に読んで冒涜だと反省し恐縮しているが
氏のデフォルメのおかげでこんなに面白い作品ができたのだから
一読者としては非常にありがたい。
だからこそ、最後まで読んでみたかったな、
慶一郎の『葉隠』を・・・